ドボ鉄063統合の象徴

絵はがき:名古屋鉄道・名鉄名古屋駅(名古屋市)


 名古屋を中心として鉄道網を広げる名古屋鉄道は、周辺の私鉄を合併しながら版図を拡大した。その総仕上げともいうべき事業が、昭和戦前期の交通統制の中で、名古屋と岐阜方面を結んでいた名岐鉄道と、名古屋と知多半島、豊橋方面を結んでいた愛知電気鉄道(愛電)の2大私鉄が合併して、1935(昭和10)年に名古屋鉄道が成立したことであった。
 この両社は、以前より共同で名古屋地下鉄道を設立して名古屋駅付近に乗り入れる計画を進めていたが、1937(昭和12)年に国鉄名古屋駅が現在の地へ移転し、巨大な高架駅を完成させたため、これをきっかけとして合併への機運が高まり、名古屋市長などの仲介を経て、名古屋鉄道が発足することとなった。
 合併した時点で、旧名岐鉄道の名古屋のターミナルは押切町(一部の電車はさらに名古屋市電に乗入れて柳橋)で、旧愛知電気鉄道の名古屋のターミナルは神宮前であったため、旧名岐鉄道区間は「西部線(名岐線)」、旧愛知電気鉄道を「東部線(豊橋線)」として分離していた。また、関西急行電鉄(現在の近鉄名古屋線)も名古屋ヘの進出を計画していたため、これと併せて西部線と東部線を連絡する地下線を建設し、鉄道省の名古屋駅に隣接して新名古屋駅(現在の名鉄名古屋駅)を地下駅として建設することとなった。
 工事は、岐阜方の西部線を延伸して東枇杷島~新名古屋間を結ぶ区間を第一期工事とし、1937(昭和12)年7月に着工して1941(昭和16)年8月12日に開業した。開業にあたって名古屋鉄道が発行した「新名古屋駅開業記念」の絵葉書では、開業したばかりの新名古屋駅がおさめられ、フラットスラブで仕上げられた地下駅の構造がよくわかる構図となっている。
 続いて、新名古屋~神宮前間を結ぶ第二期工事に着手したが、名古屋市の南部に位置していた航空機製造工場への通勤輸送を確保するため、戦時輸送工事として実施されることとなり、1942(昭和17)年8月に着工して、戦時下の1944(昭和19)年9月1日に西部線と東部線の連絡線が延長開業した。しかし、西部線(直流600V)と東部線(直流1,500V)では架線電圧が異なっていたため直通運転を行うことができず、途中の金山駅(のち金山橋駅に改称)を電圧分界点として乗換えを余儀なくされた(昇圧に必要な資材を確保できなかったための措置)。
 西部線を直流1,500Vに昇圧して直通運転が開始されるのは、戦後の1948(昭和23)年5月16日で、同時に豊橋~名鉄岐阜間は「名古屋本線」と改称した。その後も、1954(昭和29)年に完成した名鉄ビルディング(名鉄百貨店)一期工事と同時に乗降場の拡幅工事が行われたほか、1969(昭和44)年に改札口の増設工事、1975(昭和50)年にホーム延伸・拡張工事などが行われ、現在の姿となった。名古屋鉄道の成立を象徴した名鉄名古屋駅(2005(平成17)年に新名古屋駅を改称)は、今も同社の要としてその機能を果たし続けている。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2011年6月号掲載)

 

この物件へいく


Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

昔は名鉄と近鉄の線路がつながっていたという話を聞いたことがありますが、本当ですか?

A

 本当です。近畿日本鉄道名古屋線の前身である関西急行電鉄は、1938(昭和13)年に名古屋へ進出して、関急名古屋駅が地下駅で開業しました。その後、1941(昭和16)年に名古屋鉄道の新名古屋駅が完成した時に、両社を地下で接続する連絡線が設けられました。当時は、名鉄も関急も軌間(レールの幅)は同じ1,067mmでしたが、架線電圧が異なっていたため、直通運転が可能となるのは、1948(昭和23)年に名鉄西部線の昇圧が完成してからでした。実際は、1950(昭和25)年8月26日から団体・不定期列車のみに限って近鉄から犬山、豊川稲荷方面へ、名鉄から伊勢、養老方面へ乗り入れましたが、名鉄ビルディングの建設のために1952(昭和27)年12月20日に廃止されました(近鉄側の資料では同年9月30日に名鉄側の運転本数の増加に伴って廃止したとしています)。廃止された連絡線はコンクリートの壁で埋められ、近鉄は1959(昭和34)年に名古屋線の軌間を現在の1,435mmに改軌して名阪間に直通特急を走らせました。(小野田滋)


”名鉄名古屋駅(名古屋市)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

師匠、開業した時の絵葉書だと右側の柱は線路の間に建っていますけど、現在の写真だとホームの上に建っていますよ。

師匠

完成した時は線路が3本あったが、1954(昭和29)年の名鉄ビル建設の際に、線路を2本にまとめて中央の島式プラットホームの幅を広げたんだ。

小鉄

でも、2本の線路だけで列車をさばくのは大変ですよね。

師匠

名鉄名古屋駅で電車を待っていると、同じホームに次々と行先や種類の違う列車が発着するから、初めて利用する人は驚くな。

小鉄

たしかに大きな駅にはホームがたくさんあって、行先や列車の種類ごとに乗るホームがだいたい決まっているけど、名鉄名古屋駅は全部同じホームですね。

師匠

だが、線路は上下線の2本だけの方向別だから、単純明快だ。

小鉄

名鉄は支線が多いから、慣れないと迷いますね。

師匠

支線が多いのも名鉄の特徴だ。

小鉄

でも、ほとんどの支線に乗換えなしで行けるから、コツを覚えれば便利ですね。

師匠

支線が多いのは、いろいろな私鉄が合併を繰り返した名残りだな。

小鉄

その総仕上げが、名岐鉄道と愛知電気鉄道の合併で、新名古屋駅に「全集中」することになったというわけですね。

師匠

お前さんは、もう観たのか?

工事概要図面(線路)図面(隧道)
Back To Top