川展 日本河川風景二十区分 ―国分かれて山河似る―

区分:⑦飛騨高原/両白山地

区分:⑦飛騨高原/両白山地

区分:⑦飛騨高原/両白山地
特徴:山地の標高は高く区分⑥と同様急流であるが、扇状地の下流に平野が存在する。
河川:神通川、庄川、小矢部川、手取川、梯川、九頭竜川

(1)急な扇状地から平地を経て海へ流れる

知花武佳 河川研究者
区分⑦飛騨高原/両白山地は、区分⑥と同じように扇状地河川が多いですが、扇状地のまま海に流れ出るのではなく、下流部で扇状地から平地を経て海に流れ出ることが特徴になります。西に行くと庄川がありますね。世界遺産の白川郷の前を流れている川です。

白川郷を流れる庄川_撮影:知花武佳

これは霞提と呼ばれている堤防です。

庄川中流部(霞堤)_撮影:知花武佳

この辺になると、草が生えていても、黒部川など区分⑥の扇状地と雰囲気が似ているなと思うんですけれども、最後、この平地の雰囲気が表れるんですね。

庄川下流部_撮影:知花武佳


知花武佳 河川研究者
こちらは福井の九頭竜川です。

九頭竜川 中流部_撮影:知花武佳

九頭竜川中流部_撮影:知花武佳

九頭竜川下流部_撮影:知花武佳

九頭竜川も立派な扇状地とまっ平らな河口というので、綺麗に中流・下流というのが分かれます。庄川をはじめ、このエリアの神通川、手取川や、九頭竜川もそうですね。ものすごい急流な扇状地なんですけれども、その後まっ平らな所に出るので、逆に言うとそのまっ平らな所が結構水害にあってきました。勾配が急に落ちるので。 


北河大次郎 ドボ博館長
その勾配の変化が、河口部で土砂がたまる原因にもなっているんでしょうか。九頭竜川の場合、河口に港があるので、土砂がたまらないように、流速を保つための突堤がつくられています。三国港突堤は、設計に関わったお雇い外国人の名前をとって、エッセル堤とも呼ばれています。

皆川典久 東京スリバチ学会
だまし絵で有名なエッシャーのお父さんですね。

三国港突堤_撮影:大村拓也

(2)扇状地集落の違い

知花武佳 河川研究者
川の観点からいうと、区分⑥と区分⑦は常願寺川と神通川の間を境にしていますが、集落のあり方から見ると、境は少し違ってきます。庄川の扇状地では、散居村集落が見られます。各家が点在している集落ですね。実は集落はある程度ライン上に沿って点在しており、水路のメインのラインがあってその周りにもポツポツ一軒ずつ家があります。一軒、一軒の前まで水路網により全部水が通っているんですね。

庄川流域の集落(Google Mapより)


知花武佳 河川研究者
けれど、能登半島を越えて手取川に行くと、散居村ではなく、複数の家々が塊になって集落を形成しています。

手取川流域の集落(Google Mapより)


知花武佳 河川研究者
村松繁樹さんという方の解説によると、手取川の集落は水路ではなく井戸によって水を得ており、しかも地下水が深く、かなり深い井戸を掘らなければいけなくて、とても一軒に1個の井戸は掘れないということです。

庄川の上流は岐阜まで続いており、山もとても高いんですね。一方、手取川は確かに扇状地は立派ですけれども、上流は白山で、山も高いですけれどもすぐ終わるんです。

そうすると、どっちも冬にものすごく雪を溜め込むんですけれども、手取川は春先の4月に融雪出水で全部流れちゃって、それを代掻きで田んぼに入れたらそれで終わりなんですね。

ですけれども、庄川は、浅野総一郎が小牧ダムをつくって大喜びしてたことから分かるように、ものすごく雪も多いし山も高いので、溶けるのに時間がかかって、5月・6月でもまだ融雪出水の影響ってあるんですよね。だから水もちが全然違う。庄川の方が水が豊富なんですね。


知花武佳 河川研究者
発電量も、やっぱり庄川の方が大きいです。手取川も発電ダムは山ほどあるんですけれども、発電量が全然違うんですよね。だから水資源の豊かさが全然違って、庄川沿いでは一軒一軒くまなく水も配れるし、なんなら井戸掘ったらすぐに水が出るんですけれど、手取川は一集落で1つくらい。 

皆川典久 東京スリバチ学会
川の性格によって、人の住み方、ひいては集落の風景も変わってくる。面白いですね。

知花武佳 河川研究者
黒部川の方は流水客土の話が有名ですね。洪水時の流水に乗せて泥をバーッとまいて、水が抜けちゃう扇状地の土地を改良して、全部田んぼにしたということです。

手取川は違って、1つ1つの田んぼに土砂入れているんですね。その集落の1つで、この集落はいかに苦悩したかが書かれた石碑があったのを覚えています。田んぼをやりたいんだけれど泥がなくて、スカスカの土で保水ができず稲作ができないんです。そのため周りの集落に「悪いんだけど泥をちょっと分けてくれ」とお願いして、泥を貰って自分の田んぼを作っていたから、周りの集落から「この泥乞食が」と馬鹿にされた集落もあるんです。


知花武佳 河川研究者
なので、集落のでき方や稲作の観点から見ると、この川の区分とちょっと違って、能登半島の付け根の東と西、つまり散居村集落の見られる東側と西側にわけるのがいいでしょう。川自体に注目して、扇状地の海に突っ込むか、平らな区間があってそこで水がはけず洪水が起こるかで分ければ、北アルプスとその西側ってことになります。

知花武佳 河川研究者
いずれにしろ、東の黒部川から、西の九頭竜川までグラデーションがかかっているというのが間違いないですね。そういうエリアです。 
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