川展 日本河川風景二十区分 ―国分かれて山河似る―

前口上

「ドボ鉄目線の川番付を……」というリクエストを頂戴したので、「川はマイナーだけど、鉄道構造物ではそこそこ~超有名な川番付」を選んでみた。

新幹線や都市鉄道に使われている有名な構造物を期待した方々には大変申し訳ないが、定番ではなくむしろ「川展」の話題にもならないマニアックな川にポツンと存在する構造物ばかりである。

たとえば「あっかがわ」と聞いてピンとくる方は、プレストレストコンクリートの歴史に相当詳しい方だ。「安家川」と書いて「あっかがわ」と読むが、岩手県下閉伊郡岩泉町安家村を流れる二級河川で、岩手県内で完結し、流域に大きな町もないので、他県の方にはほとんどなじみのない河川名だと思う。しかし、その河口で安家川を跨いで架かる三陸鉄道の橋梁は、全国的にも4例しかない珍しいプレストレストコンクリート構造の鉄道トラス橋である。

鉄道は全国津々浦々にその版図を広げたが、山岳地や海岸部では険しい地形を克服するために特殊な設計の構造物を建設せざるを得なかった。このため、標準設計の構造物を多用した都市鉄道や幹線鉄道よりも、地方のローカル線に個性的で特殊な構造物が存在する。ローカル線の鉄道はどこも経営環境が厳しいが、知る人ぞ知る構造物の宝庫なので、「秘境駅」と同様にこうした構造物を観光資源としても活用できればと思う。

どこの川かは知らないけれど、構造物の名前を聞けば「ああ、あの日本で最初の……」とその姿がイメージできるようになれば、あなたも立派な「ドボ鉄」の達人である。

(小野田 滋)

西

【横綱】 大戸川(だいどがわ)→瀬田川→宇治川→淀川

構造物名/第1大戸川橋梁(滋賀県甲賀市/1954年完成)

路線/信楽高原鐵道・勅旨~玉桂寺前

特徴/営業線(当時は国鉄信楽線)に架設された日本最初の鉄道用プレストレストコンクリート橋で、フレシネー工法による支間30mの橋梁として完成した。【国登録有形文化財・選奨土木遺産】

【横綱】 小本川(おもとがわ)

構造物/小本川橋梁(岩手県下閉伊郡岩泉町/1979年完成)

路線/三陸鉄道リアス線・摂待~岩泉小本

特徴/長大コンクリート橋梁の可能性を見極めるため、鉄道専用では世界初となる斜張橋として建設された。日本のプレストレストレストコンクリート技術は、第一大戸川橋梁からわずか25年で斜張橋へと進化した。

西

【横綱】 宗川(むねかわ)→丹生川(にうがわ/にゅうがわ)→紀ノ川

構造物/宗川橋梁(奈良県五條市/1976年完成)

路線/五新線(未成線)

特徴/未成線の五新線(五条~新宮)に完成した鉄道橋としては珍しいπ(パイ)形ラーメンの鋼橋で、バス専用道として用いられたが現在は閉鎖されている。

【横綱】 タウシュベツ川→糠平湖→音更川→十勝川

構造物/旧タウシュベツ川橋梁(北海道河東郡上士幌町/1938年完成→1955年廃止)

路線/旧国鉄士幌線・糠平~幌加

特徴/径間10m×11径間のコンクリートアーチ橋で、1955年に糠平ダム建設のために廃線となり、そのまま廃線跡に存置されている。湖水の水位の変化により姿を現すため「幻の橋」とも呼ばれる。

西

【大関】 太田川(おおたがわ)

構造物/太田川橋梁(広島県広島市西区/1975年完成)

路線/JR西日本山陽新幹線・広島~新岩国

特徴/デルタの都市、広島の西側を流れていた己斐川(山手川)と川添川(福島川)を改修して1968(昭和43)年に新しい太田川(太田川放水路)が完成した。山陽新幹線は、7径間連続、橋長432mのプレストレストコンクリート連続桁でこれを一気に跨いだ。

【大関】 豊川放水路(とよがわほうすいろ)

構造物/豊川放水路橋梁(愛知県豊橋市・豊川市/1963年完成)

路線/JR東海飯田線・下地~小坂井、JR東海東海道本線・豊橋~西小坂井

特徴/豊川放水路を建設した際に架設されたポニーワーレントラス橋で、東海道本線、飯田線、名古屋鉄道本線が共用するため、全国的にも珍しい3線が同じ橋を渡る3線合造トラスとして完成した。

西

【大関】 五ヶ瀬川(ごかせがわ)

構造物/第3五ヶ瀬川橋梁(宮崎県西臼杵郡日之影町/1939年完成)

路線/旧高千穂鉄道・日向八戸~吾味

特徴/中央径間は鋼上路トラスであるが、側径間に珍しい鉄筋コンクリート方杖ラーメンを使用した。鉄道は廃止されたが、遊歩道として利用されている。【選奨土木遺産】

【大関】 廻戸川(まっとがわ)→錦秋湖→和賀川→北上川

構造物/廻戸川橋梁(岩手県和賀郡西和賀町/1954年完成)

路線/JR東日本北上線・ゆだ錦秋湖~ほっとゆだ

特徴/1962(昭和37)年に湯田ダムを建設した際にダム湖に沈む岩沢~陸中川尻間の約15km区間を新線に付替え、方杖式の鉄筋コンクリートラーメンアーチ橋として廻戸川橋梁が完成した。

西

【関脇】 愛知川(えちがわ)→琵琶湖→瀬田川→宇治川→淀川

構造物/愛知川橋梁(滋賀県東近江市・同愛知郡愛荘町/1898年完成)

路線/近江鉄道湖東近江路線・愛知川~五箇荘

特徴/明治時代にイギリスから輸入された支間100フィートのポニーワーレントラス橋が架かる。架替えなどではなく、当初から現位置に架かっている希少な例。【国登録有形文化財】

【関脇】 見沼代用水(みぬまだいようすい)→荒川

構造物/見沼代用水橋梁(埼玉県行田市/?→1921転用)

路線/秩父鉄道秩父本線・武州荒木~東行田

特徴/明治時代初期にイギリスから輸入されたポニーワーレントラスを転用して(転用元不明)、秩父鉄道の前身であった北武鉄道によって1921(大正10)年に架設された。見沼代用水は、享保の改革で完成した用水路で、埼玉県行田市から東京都足立区に至る。

西

【関脇】 羽咋川(はくいがわ)

構造物/羽咋川橋梁(石川県羽咋市/1961年完成)

路線/JR西日本七尾線・羽咋~千路

特徴/国鉄では2番目(鹿児島本線の石堂川橋梁が最初)のプレストレストコンクリート構造による下路桁として完成した。

【大関】 大北川(おおきたがわ)

構造物/大北川橋梁(茨城県北茨城市/1985年完成)

路線/JR東日本常磐線・南中郷~磯原

特徴/大北川橋梁は、3主桁の3径間連続PC下路桁で、しかも曲線にあわせて主桁も曲線桁とした全国的にも珍しい鉄道橋である。

西

【小結】 多々良川(たたら川)

構造物/名島川橋梁(福岡県福岡市東区/1923年完成)

路線/西日本鉄道貝塚線・貝塚~名島

特徴/貝塚線の前身である博多湾鉄道汽船が建設した径間12.0m(一部9.0m)×16連の鉄筋コンクリートアーチ橋で、設計は鉄道院技師から独立したばかりの阿部美樹志による。【選奨土木遺産】

【小結】 達曽部川(たっそべがわ)→猿ヶ石川→北上川

構造物/達曽部川橋梁(岩手県遠野市/1915年完成→1943年?改築)

路線/JR東日本釜石線・岩根橋~宮守

特徴/1943(昭和18)年頃に先代の岩手軽便鉄道のプレートガーダ橋の橋脚をコンクリートで包み込み、6径間のコンクリートアーチ橋に改築した。改築前の橋梁は、宮澤賢治の作品の中で「…ほのかにしろい並列は/達曽部川の鉄橋の脚…」と描かれる。【選奨土木遺産】

西

【小結】 鮎喰川(あくいがわ)→吉野川

構造物/鮎喰川橋梁(徳島県徳島市/1899年完成)

路線/徳島線・鮎喰~府中

特徴/類似名の「あぐいがわ」は愛知県の武豊線にあるが、四国の「あくいがわ」は「鮎喰川」と書く。武豊線の英比川橋梁と同様に、明治時代のポーナル桁を使用している。

【小結】 阿久比川(あぐいがわ)

構造物/英比川橋梁(愛知県半田市/1891?→1958改造)

路線/JR東海武豊線・乙川~半田

特徴/徳島県の安喰川(あくいがわ)とは全く関係ないが、阿久比川に架かる上路プレートガータは、鮎喰川橋梁と同様に明治時代に用いられたポーナル形と呼ばれるイギリス式の桁を用いている。錬鉄製で、並列補強を行っている。

西

【前頭筆頭】 沖田川(おきたがわ)→阿武川

構造物/徳佐川橋梁(山口県山口市/1922年完成)

路線/JR西日本山口線・徳佐~船平山

特徴/鋼材節約を目的として大正時代に設計されたラチスガーダが架かる。日本全国で3箇所のみに現存する希少な例である。【選奨土木遺産】

【前頭筆頭】 安家川(あっかがわ)

構造物/安家川橋梁(岩手県九戸郡野田村/1975年完成)

路線/三陸鉄道リアス線・堀内~野田玉川

特徴/長大橋梁をめざして試作された珍しいプレストレストコンクリート上路ハウトラスで、超高強度コンクリートを用いた。

西

【前頭2枚目】 六角川(ろっかくがわ)

構造物/六角川橋梁(佐賀県杵島郡江北町/1929年完成)

路線/JR九州長崎本線・肥前山口~肥前白石

特徴/トラス橋は、日本有数の干満差で知られる有明海の潮汐を利用して鉄道橋としては日本最初のポンツーン工法(潮の干満差を利用して浮舟によって橋梁を架設する方法)で架設された。

【前頭2枚目】 玉川(たまがわ)→雄物川

構造物/第1玉川橋梁(秋田県大仙市/1996年完成)

路線/JR東日本田沢湖線・角館~鶯野

特徴/田沢湖線は秋田新幹線のルートとして広軌化され、橋梁も新幹線が渡るにふさわしい近代的な橋梁に改築された。第1玉川橋梁は、プレストレストコンクリート斜張橋(斜版橋)に架換えられ、秋田新幹線「こまち」が颯爽と通過する。

西

【前頭3枚目】 小丸川(おまるがわ)

構造物/小丸川橋梁(宮崎県児湯郡高鍋町/1921年完成→1960年架換)

路線/JR九州日豊本線・川南~高鍋

特徴/日本で開発された橋梁架設用操重車オソ1形を用いて、足場を用いることなく35連の桁をわずか1ヵ月弱で次々と架設した。約40年後に後継機として開発されたソ200形操重車によって現在のPC桁に架換えられた。

【前頭3枚目】 備前渠(びぜんきょ)→利根川

構造物/旧備前渠橋梁(埼玉県深谷市/1895年完成→1975年廃止)

路線/旧日本煉瓦製造専用線・深谷~日本煉瓦製造上敷免工場

特徴/日本最初の専用線として建設された日本煉瓦製造専用線に架かる橋梁で、ポーナル型と呼ばれるイギリス型のプレートガーダが、廃線跡の遊歩道に保存されている。【国重要文化財】

西

【前頭4枚目】 白須川(しらすがわ)

構造物/惣郷川橋梁(山口県阿武郡阿武町/1932年完成)

路線/JR西日本山陰本線・須佐~宇田郷

特徴/日本海を背景として緩いカーブを描きながら屹立する橋梁で、潮風にも耐えられるように鉄筋コンクリートラーメン構造を採用した。鉄道写真の有名撮影地としても知られる。【選奨土木遺産】

【前頭4枚目】 砥川(とがわ)→板穴川→鬼怒川→利根川

構造物/砥川橋梁(栃木県日光市/1896年完成→1946年転用)

路線/東武鉄道鬼怒川線・大桑~新高徳

特徴/常磐線渡良瀬川橋梁から転用したイギリス製プラットトラスで、イギリスのハンディサイド社で製造されたことを示す巨大なリボン形の銘板が取付けてある。【選奨土木遺産】

西

【前頭5枚目】 石屋川(いしやがわ)

構造物/石屋川トンネル(兵庫県神戸市灘区・東灘区/1870年完成→1919年撤去)

路線/JR西日本東海道本線・住吉~六甲道

特徴/日本最初の鉄道トンネルとして完成した石屋川トンネルは、天井川である石屋川の下をくぐった。跡地に記念碑と案内板が建っている。

【前頭5枚目】 折居川(おりいがわ)→大通川→福島潟→福島潟放水路

構造物/山倉川橋梁(新潟県阿賀野市/2003年完成)

路線/JR東日本羽越本線・神山~月岡

特徴/1998(平成10)年8月の新潟豪雨による折居川改修工事で河川が切換えられたため、山倉川橋梁を改築することとなり、斜材に鋼管を用いた鋼管トラスウェブPC桁(PC複合トラスの一種)という特殊な構造が採用され、工期短縮が図られた。

西

【前頭6枚目】 狼川(おおかみがわ)→琵琶湖→瀬田川→宇治川→淀川

構造物/狼川トンネル下り線(滋賀県草津市/1897年完成→1956年廃止)

路線/JR西日本東海道本線・南草津~瀬田

特徴/狼川トンネルは、天井川の下を斜めにくぐったため、「ねじりまんぽ」と呼ばれる特殊な技法を用いた。河川名の由来は、狼の伝説にちなんだとされる。

【前頭6枚目】 花見川(はなみがわ)

構造物/花見川橋梁(千葉県千葉市花見川区/1969年完成)

路線/JR東日本総武本線・幕張~新検見川

特徴/印旛放水路事業で花見川を拡幅した際に建設された橋梁で、1957(昭和32)年に3径間の鉄筋コンクリートカンチレバー橋として完成した。鉄道用鉄筋コンクリート橋梁としては、最初の箱桁構造を採用して軽量化を図った。

西

【前頭7枚目】 石手川(いしてがわ)→重信川

構造物/石手川橋梁(愛媛県松山市/1882年完成)

路線/伊予鉄道横河原線・石手川公園

特徴/明治時代にイギリスから輸入されたポニーワーレントラスを用いている。鉄道駅が川を跨いでいる場所は全国でもいくつか知られているが、石手川公園駅は、歴史的構造物を伴っているのがポイント。【選奨土木遺産】

【前頭7枚目】 赤谷川(あかやがわ)→利根川

構造物/赤谷川橋梁(群馬県利根郡みなかみ町/1982年完成)

路線/JR東日本上越新幹線・高崎~上毛高原

特徴/主径間は、支間126mの鉄筋コンクリート逆ランガーアーチで設計され、鉄筋コンクリート鉄道橋梁としては最大支間を誇る。

西

【前頭8枚目】 生田川(いくたがわ)

構造物/新神戸駅(兵庫県神戸市中央区/1972年完成)

路線/JR西日本山陽新幹線・新神戸

特徴/新神戸駅は、生田川と直交するほか諏訪山断層を斜めに跨いでいる。このため、万一断層が変位しても影響を与えないようにするため、ホーム桁に珍しいフィーレンデール構造を採用し、ラーメン高架橋の径間構成に特殊な設計が採用された。

【前頭8枚目】 千歳川(ちとせがわ)

構造物/江別川橋梁(北海道江別市/1973架換)

路線/JR北海道函館本線・江別~豊幌

特徴/鉄道では河川名と橋梁名でしばしば不一致が見られるが、江別川は夕張川と千歳川の合流点から下流の古名で、現在では鉄道橋にその名をとどめる。江別川橋梁は、上下線とも1973(昭和48)年に架換えられ、一般的な下路プレートガーダを用いた。

西

【前頭9枚目】 金剛川(こんごうがわ)→吉井川

構造物/三石金剛川橋梁(岡山県備前市/1891年完成)

路線/JR西日本山陽本線・三石~吉永

特徴/山陽本線の盛土の下を径間20フィート(6.1m)×4径間の煉瓦アーチ橋で跨ぐ。上り線側が1891(明治24)年、下り線側が1911(明治44)年に完成した。【選奨土木遺産】

【前頭9枚目】 安谷川(あんやがわ)→荒川

構造物/安谷川橋梁(埼玉県秩父市/1914年完成→1930年転用)

路線/秩父鉄道・武州中川~武州日野

特徴/磐越西線阿賀野川当麻橋梁から転用した上路ボルチモアトラスで、アメリカの橋梁メーカーを代表するアメリカンブリッジ社で製造された。

西

【前頭10枚目】 波多川(はたがわ)

構造物/波多第四橋梁(熊本県宇城市/1899年完成)

路線/JR九州三角線・石打ダム~波多浦

特徴/明治時代の古い桁を補強するために、大正時代末から昭和時代初期にかけて桁のフィンクトラス補強が行われた。キングポスト型とクィーンポスト型があり、波多第四橋梁は後者の貴重な現存例である。

【前頭10枚目】 破間川(あぶるまがわ)→魚沼川→信濃川

構造物/第4平石川橋梁(新潟県魚沼市/1937年完成)

路線/JR東日本只見線・入広瀬~大白川

特徴/平石川は、黒又川との合流点より上流の古名で、只見線は平石川を遡りながら県境の六十里越をめざす。第4平石川橋梁は、支間40.0mの鉄筋コンクリートアーチ橋として建設され、充腹式アーチ橋としては今も最大径間を誇っている。

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