四国インフラ036 四万十川

「優しい土木」が支えた多機能な<大骨格>


山間をゆったりと流れる全長196kmの四万十川の姿は、高知県西部をひとまとまりに繋いで地域の<骨格>をなす。

中世以来、流域の主要な換金生産物だった材木や薪等の運搬路を担った。このはたらきは、自然界の産物を人間界に取込む、巨大な<口>(消化器系)に例えられそうだ。川沿いの集落は木材伐出しや積替えの拠点として職人や商人が集まって栄え、水運から鉄道、トラック輸送へと置換わる過程で造られた道・橋・隧道等が現在も生活道に供されている。各集落では、メディアでお馴染みの川漁や山間の茶栽培など多様な生業が営まれ、<口>のシステムは長大な沿川に分散し地域の人々の生活に重なっているのがわかる。

支流黒尊川のほとりの「お菊の滝」は「番町皿屋敷」に酷似した伝説の舞台と言伝えられ、川を通じた文化情報の伝播を物語る。河口の下田集落では、関西への出荷をにらみ伊勢湾から技術が導入された川ノリ養殖や、大阪から持ち帰った技術で川砂利を用い製造された「バラスブロック」の塀などが見られ、川が支えた交易の影響による個性的な風景となっている。これらには<神経系>のはたらきが見えていよう。

川の空間は生物の宝庫であるとともに子ども(大人も!)の遊び場でもあり、<呼吸器><細胞>として極めて秀逸だ。

このように多義的な<骨格>がそのはたらきを存続できたのはなぜか?自然・社会にまつわる地理的な条件も重要だが、ここでは、流域にちりばめられた川に優しい<手術>に注目したい。

津野町早瀬の一本橋は、出水時に流されて破壊から逃れ、繰返し人力でかけ直される。本・支流合わせ47カ所ある沈下橋は、出水時には水没して激しい流れをやり過ごす。支川後川の麻生堰は糸流しという技法により河床洗掘しにくい曲線形状をもつ。共通するのは、出水の猛威に対して抗い過ぎない知恵が見せる優しさであろう。

加えて、一度改変した川の環境を修復する近自然河川工法の<手術>例も数多い。護岸整備された河道に石材を配置して渓流を再現した事例や、コンクリート落差工を撤去して渓流状の多段落差に変更した事例、過剰堆積した土砂を排除するために流水を制御するハイドロバリヤー水制の事例をはじめ、先進地スイスから地域ぐるみでいち早く学び実践された1990年代の成果が点在する。(西山)

(赤色立体地図:アジア航測株式会社 国土地理院承認番号 平28情使第1285号 / 航空写真:Google Earth)

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参考文献

文化的景観スタディーズ03「川と暮らしの距離感 〜四万十 岐阜〜」,独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所,03
「四万十川流域文化的景観研究」,独立行政法人国立文化財機構 奈良文化財研究所,03
「四万十川流域の文化的景観」,四万十川財団,03
「自然と生活の調和した村づくりを求めて 〜スイス農村視察研修報告書〜」,東津野村スイス農村視察団,1996
「里地 〜人と人、人と自然が共生する地域づくりをめざす人へ〜」,財団法人 水と緑の惑星保全機構 里地ネットワーク,06
「伝統工法水制の近自然工法への応用」,国土交通省九州地方整備局河川部,03

種別 道路橋
所在地 高知県四万十市 宿毛市 宇和島市 黒潮町 四万十町 中土佐町 津野町 梼原町 三原村 愛媛県宇和島市 鬼北町 松野町
規模 長さ196km 流域面積2186km2
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