四国インフラ032 久礼港

中土佐の<食道>街


車一台通るのがやっとな道の両側に家屋がみっちりと軒を連ねる、夕暮れ刻の久礼。民家の玄関脇に小さな流しがある。そこへまな板をわたし、おじさんがガッコガッコと音をさせながら勢いよく魚を捌いている。聞くとサワラを刺身にするそうだ。あらあらしくも手際よく切り身にして、ざぁっとまな板を洗って奥へ去っていく。漁師町の風景だ。

中土佐町の久礼港は、太平洋に向かって大きく弓形を描く土佐湾のほぼ中央部にある。13世紀中頃には時の有力者(土佐一条家)の目にとまり、14世紀には久礼港を中心とした海域で流通や往来があったという。中世からの長い歴史を持つ港だ。河口部にある内港から旧久礼城へ向かって一本の道が伸びており、その両側に内港の入り口付近を焦点とした放射状の街路網が広がり、これらと外港に平行する街路網によって市街地が構成されている。つまり、港が市街地の構造を規定しているようだ。

大正4(1915)年には230戸が、昭和7(1932)年には280戸が大火で失われており、必ずしも歴史的な建造物が多く残っているわけではない。しかし、生活感あふれる道を歩き、内港へ向かって段状に低くなる地形をつなぐ路地や階段を跨ぎ、ところどころに残っている伝統的な建築の所作を目にする頃には、このまちには中世から続く漁師町のDNAのようなものが連綿と受け継がれていることを肌で感じ始める。港町には欠かせない酒蔵もある、恵比須神社(海の神)もある。そして、とどめが冒頭のおじさんである。

「港」という土木施設は、人体に喩えれば<食道>のようなものだ。人々の生活に必要な物資を取り入れる<消化器系器官>。ここ久礼は、その<食道>がまちをかたちづくり、人々の暮らしと文化を育んできた「食道街」とでも呼ぶべきまちだ。まちのあちこちで見られる「食道街」の風景、すなわち、港と漁師町の景観およびその背景となる生活文化が良好に残されていることが評価され、平成23(2011)年に「久礼の港と漁師町の景観」として、重要文化的景観に選定されている。(尾崎)

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種別 港・都市
所在地 高知県中土佐町
規模 久礼内港船だまり8500 m2 久礼船だまり8400m2
管理 高知県
備考 平成23(2011)年重要文化的景観
文化的景観
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