四国インフラ052 長浜大橋

増田淳が描いた<DNA>


長浜大橋は肱川の河口にかかる橋長232.3m、幅5.5m、5つのトラス橋と2つの桁橋からなる7径間の橋で、中央部の桁橋のひとつが開閉する。肱川の水運が活発に利用されていた時代、自動車と船の行き来を両立するため可動橋が架けられたのだ。開閉部分の桁の長さは18m、重量は82t。こんなにも重い桁橋の開閉にはさぞエネルギーを必要とするだろうと想像するが、実は1回の開閉に必要な電力量はわずか0.2kW、テレビほどの電力量しか必要としない。なんと停電時には手動でも跳ね上げが可能だという。そのひみつは、中央部のカウンターウェイトが開閉を容易にするおもりの役目を果たしているためである。

かつて土木構造物の設計は内務省などの組織内部でおこなっていた。そんななか、愛媛県が長浜大橋設計の白羽の矢をたてたのは、数多くの名橋を世に送り出した増田淳が主宰する民間の設計事務所であった。増田はさまざまな形式の橋梁設計に果敢に挑むとともに、高欄などの付属物、さらには施工計画まで精通している当時最も優れた橋梁技術者のひとりであった。

増田が描く図面は、レイアウト、構造線や寸法線などの線の太さのメリハリ、また字体の統一をはじめ、見るものを魅了する美しさを備えている。加えて、設計荷重や現場指示に関する注記や使用鋼材の特注まで書き込まれ、彼の橋梁設計に対する誠実な眼差しがひしひしと感じらとれる。こうした優れた<DNA>が描かれたからこそ、いまでも色褪せることのない稀代の<循環器>が誕生したとは言いすぎだろうか。(白柳)

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参考文献

社団法人建設コンサルタント協会:土木遺産Ⅲ 世紀を越えて生きる叡智の結晶 日本編,ダイヤモンド社,2010.

種別 道路橋
所在地 愛媛県大洲市長浜
構造形式 下路式トラス橋 バスキュール式可動橋
規模 橋長232.3m・幅5.5m
竣工 昭和10(1935)年
設計者 増田淳
備考 平成26(2014)年重要文化財
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