ドボ鉄116高架桟橋の威容

絵はがき:室蘭港鉄道高架桟橋(北海道室蘭市)


 石炭産業の全盛時代、石炭輸送を効率よく行うために数多くの荷役設備が建設された。特に、鉄道輸送と海上輸送の結節点である港には、鉄道から船舶へ積み換えるために特殊な荷役設備が設置され、わが国の貨物輸送を支え続けた。
 北海道の小樽港(手宮)と室蘭港には、高架式の海上石炭桟橋が建設された。このうち、室蘭港に設置された高架桟橋は、海上部の長さ358m、陸上部の長さ221m、高さ19m、幅17mというトレッスル式の巨大な木造構造物として1911(明治44)年に完成し、1日約6千トン以上の石炭を積み込む能力があった。絵葉書では、海上に突き出した桟橋の傍らに石炭輸送船が停泊しており、荷役を行っている様子がよくわかる。また、桟橋の先端には、「I.G.R.」(Imperial Government Railways:鉄道院)、「COAL PIER」(石炭桟橋)の文字が誇らしく掲げられ、この桟橋が国有鉄道の施設であることを示している。
 しかし、木材の腐食が激しく、莫大な維持費を必要としたほか、修繕のたびに使用を停上していたことから、輸送効率はしだいに低下した。このため、室蘭港の高架桟橋は、1936(昭和11)年に解体され、その偉容を絵葉書に残したまま永久にその姿を消した。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2008年7月号掲載)

 

この物件へいく


Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

高架桟橋はどのような仕組みだったんですか?

A

高架桟橋は、石狩炭田から鉄道輸送で運んできた石炭を、効率よく船に積み替えるための施設として建設されました。積車状態の石炭車を推進運転で桟橋の最上部に押し上げ、両側面のホッパによって石炭船に落とし込み、空車となった石炭車を下り勾配で重力式によって戻す仕組みでした。こうした高架式の石炭桟橋はアメリカなどでも発達していましたが、往路を押し上げ、復路のみに重力を利用する方式は、日本独自の工夫でした。(小野田滋)


”室蘭港鉄道高架桟橋(北海道室蘭市)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

高架桟橋があったのは、現在のどのあたりですか?

師匠

室蘭港フェリーターミナルのあるあたりだが、2022(令和4)年2月にフェリーが廃止されて、施設は閉鎖されたままだ。

小鉄

どうして閉鎖になったんですか?

師匠

室蘭港のフェリーは、苫小牧港と競合していたが、苫小牧港の方が札幌にやや近く、利用料金も安かった。最後まで残っていた八戸~室蘭航路も休止となった。

小鉄

現地には何か痕跡が残ってますか?

師匠

高架桟橋の痕跡は何も残っていないが、閉鎖された室蘭港フェリーターミナルと旅客デッキは残されたままだ。

小鉄

室蘭駅は昔のままですか?

師匠

室蘭駅は、1997(平成9)年に1kmほど離れた現在の場所に移転したが、1912(明治45)年に完成した木造の旧駅舎は保存されて、1999(平成11)年に国の登録有形文化財に登録された。

小鉄

文化財になって良かったですね。

師匠

旧室蘭駅舎は、室蘭観光協会によって観光案内所として利用されている。

小鉄

この「海に生くる人々」という記念碑は何ですか?

師匠

葉山嘉樹が1926(大正15)年に発表した小説の文学碑だ。

小鉄

どんな小説ですか?

師匠

室蘭港に出入りする萬寿丸という石炭貨物船で働く労働者を描いた小説で、日本のプロレタリア文学に影響を与えた作品とされる。

小鉄

高架桟橋があった頃ですね。

師匠

小説でも高架桟橋の様子が何度か登場する。

小鉄

たとえば?

師匠

「数十間の高さに、海中に突き出している高架桟橋上の駅夫や、仲仕の仕事は、たとえように困るほど寒いものに相違なかった。」という一節などだ。

小鉄

冬の高架桟橋の厳しさが伝わってきますね。

師匠

葉山は実際に船員労働の経験があった人物だから、描写もリアルだ。

小鉄

実体験を小説で描いたんですね。

師匠

室蘭は工業都市として発達したから、近代化遺産の宝庫で、2019(令和元)年度に文化庁の日本遺産にも認定されている。

小鉄

日本遺産って何ですか?

師匠

文化庁が認定している制度で、地域の文化財を「文化・伝統を語るストーリー」として認定している。

小鉄

室蘭のストーリーは何ですか?

師匠

北の産業革命「たんてつこう」だ。

小鉄

たんてつこう?

師匠

「炭鉄港」と書く。小樽、空知、室蘭は北海道炭礦鉄道で結ばれて、「石炭」「鉄鋼」「港湾」が三位一体となって日本の近代化を支えたというストーリーだ。

小鉄

小樽は観光地になっていますが、室蘭には何があるんですか?

師匠

旧室蘭駅舎、日本製鋼所の瑞泉閣、旧火力発電所などが残っている。

小鉄

室蘭も見どころがいろいろあるんですね。

師匠

小樽は商業で栄えたが、室蘭は工業で栄えた都市だ。

小鉄

そういえば大学も小樽が商科大学で、室蘭が工業大学ですね。

師匠

だんだんストーリーがつながってきたな。

小鉄

バラバラだった遺産が、地域の物語としてつながってきますね。

師匠

そこが日本遺産の狙いだから、点ではなく面として遺産を捉えると、そこに新しい価値が生まれてくることになる。

小鉄

日本遺産のポータルサイトが文化庁のホームページにあったから見てみましたが、2月13日が日本遺産の日なんだそうですよ。

師匠

「日本遺産」にかけて「213」となっているが、何を隠そうこの日はワシの誕生日だ。

小鉄

全く関係ないと思いますけど……。

絵はがき1絵はがき2絵はがき3荷役機械装置解説土木史論文
Back To Top