ドボ鉄117新幹線駅の新設

絵はがき:東海道新幹線・新富士駅(静岡県富士市)


 1964(昭和39)年に12駅でスタートした東海道新幹線は、5年後に三島駅が開業したのみでしばらく新駅の設置はなかった。その後、国鉄末期に5駅の新設が地元から要望され、このうち富士(現在の新富士)、掛川、三河(現在の三河安城)の3駅について1985(昭和60)年3月18日付で設置が承認された。新駅設置にあたっては、国鉄の経営収支を悪化させないこと、列車ダイヤに大きな影響を与えないこと、工事費の負担や都市計画への配慮などいくつかの条件が提示され、駅の新設にあわせて都市計画道路や区画整理事業が進められた。
 富士新駅(仮称)は在来線の富士駅の約1.5km南東に新設することが決まり、本線の両側に2面の相対式ホームと停車列車用の副本線2線を新設し、本線を通過列車用として使用した。富士新駅付近の線形は勾配2‰の直線区間で、ホームは延長410mとして16両編成に対応した。
 「工事中の富士新駅(仮称)付近を走る東海道新幹線(S62年)」と題した絵葉書は、日本国有鉄道が土木学会より表彰を受けたことを記念して国鉄建設局によって発行された1枚で、プラットホームや上屋は未施工であるが、盛土区間の法面(のりめん)を削って設けたラーメン擁壁の構造がよくわかる。
 新駅の設置にあたっては、既存の成島架道橋を拡幅してコンコースと南北自由通路を確保し、ラーメン擁壁下の空間を利用して駐輪場などを収容した。大部分が盛土区間であったため、利用できる空間が制約され、北側に団体用の増築部分を設けて対応した(現在は商業施設などに利用)。工事は、国鉄岐阜工事局によって着工したが、新富士駅として開業したのは民営化後の1988(昭和63)年3月13日で、同時に掛川駅、三河安城駅も開業して東海道新幹線の駅数は合計16駅となった。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2022年9月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

新幹線の駅が一番多い都道府県は、どこですか?

A

東海道・山陽新幹線では静岡県がいちばん多くて6駅あり、広島県と山口県が5駅です。しかし、東北・上越新幹線を含めると、岩手県と新潟県が7駅で、いちばん多くなります。ちなみに、京都府と大阪府は、開業時から1駅のみです。(小野田滋)


”東海道新幹線・新富士駅(静岡県富士市)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

東海道本線の富士駅と新幹線の新富士駅はずいぶん離れていますね。

師匠

直線距離でも約1.5kmの距離があるから、徒歩で移動するには少し遠いかな。

小鉄

タクシーだとワンメーターくらいですかね。

師匠

実は、新幹線の新駅を設置する時に、富士駅と接続する鉄道が計画されていた。

小鉄

どんなルートですか?

師匠

ここに当時の図があるが、4ルートほど考えられていたようだ。

小鉄

どのルートも富士駅から東京方面に線路が伸びてますね。

師匠

いいところに気がついたな。当時、身延線には団体専用列車が運転されていて、富士駅でスイッチバックとならないように、計画されていた。

小鉄

2案は工場の敷地を通過するようになってますが。

師匠

大昭和製紙の工場の引込線があって、それを利用すれば少し線路を延ばすだけで新富士駅に接続できた。

小鉄

うまく考えましたね。

師匠

しかし、どこが事業者となって鉄道を経営するかがまとまらないまま、話は立ち消えとなってしまった。

小鉄

残念ですね。

師匠

新富士駅は、盛土区間を利用して駅を新設したから、コンコースは必要最小限で、盛土の左右にプラットホームを設けた。

小鉄

絵葉書に写っている柱が、プラットホームを支えるため柱ですね。

師匠

ラーメン構造になっていて、柱としての役割と、切り取った盛土部分を押さえる土留め擁壁の役割を兼ねている。

小鉄

今は駐輪場になってますね。

師匠

後から建設した駅だから、いろいろなところに工夫の跡が見られるぞ。

小鉄

たとえば、どんなところですか?

師匠

盛土を開削してコンコースを設けたが、既存の3径間の成島架道橋を4径間(側径間を含めて6径間)のラーメン高架橋に改築した。

小鉄

それが駅の南北を結ぶコンコースになっているんですね。

師匠

ほとんどが盛土区間のままで高架下の利用がコンコースに限られたので、北側に駅事務室や団体待合室、売店などを収用する駅本屋を設けた。

小鉄

新幹線の駅は、駅本屋を建てないのが特徴だと聞きましたけれど。

師匠

新幹線の駅は高架駅が基本だから、高架下に駅機能を収容することが原則だったが、新富士駅は高架橋ではなかったので、例外的に外に低層の建物を建てることになった。

小鉄

プラットホームから富士山が見える駅としても評判ですよね。

師匠

プラットホーム壁面を、足元まで総ガラス張りのカーテンウォールにして、富士山の雄大な景観を満喫できるようにした。

小鉄

新幹線から富士山が見えると、1日がラッキーな気分になれますね。

師匠

富士山は下り列車の右側の車窓に見えるが、左側の車窓から見える場所があるのを知ってるか?

小鉄

ええっ⁉小田原あたりからずっと右側のはずですよ。

師匠

ところが、静岡を過ぎて安倍川橋梁を渡ったあたりで、一瞬だが左側の車窓に富士山が見える場所がある。

小鉄

ほんとですか?

師匠

わずか数十秒だから、心して眺めるように。

小鉄

だまされたと思って挑戦してみます。

師匠

あと、名古屋城が一瞬だけ見える場所もあるが……。

小鉄

師匠の話が長くなりそうなので、今日はこの辺で。

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