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土木学会創立100周年を記念する展示は、長編の国土叙事詩のようであった。
土木技術の開いた地平は、土木構造物という一片のモノが囲む閉じた次元をはるかにこえた国土マネージメントの場である。
たとえば、太古の時代から、麻のように乱れくだる河川をたくみに編み直し、ながい時間をかけて拓いた大地そのものは文化財と考えてよい。だが、文明という人間の原罪を背負ったあまりに巨きなその無名碑は、文化遺産という概念の再構築をうながしているようにみえてならない。なぜなら、山や丘、そして海岸や河川にとけこむように築かれた大地の縁辺は、その輪郭がすこぶる不明瞭なばかりか、長い時間のなかで、しばしば、都市の基盤として掘り返され、変形されてしまう。その絶え間ない生成の時空は、完結した輪郭とオリジナリティの保持を尊ぶ文化財基準ではまとめきれない奥行きをもっている。文明財というべきか。
それらは、ときに北斎の百橋一覧のごとく、庭園の添景めいて美しく、また、あるときは、美しいという感嘆詞を凍らせ、美醜をこえた畏怖と崇高の時空へ分け入って、そこに文明の非情と超越の詩を刻みつける。あるいはまた、それは、天命への従順と離反の境をさまよう人間の姿であるようにさえ思える。
今日、他の工学技術とおなじように、あまりに肥大化してしまった土木技術の世界では、環境と人間の関係がすこぶる入り込み、深刻になってしまった。その結果、残り少なくなった手付かずの自然を死守するだけでは、もはや地球の危機をすくえないし、ましてや綺麗事の倫理でお茶を濁してすますことなどできはしない。
この矛盾を乗り切る鍵は、やはり歴史の中にあるのだろう。文明史の中の土木の役割を顧みれば、政治、経済、環境などの諸問題へ総合的に立ち向かう地文学的戦略術の感がつよい。そう思って、深いシワのついた図面をよくみていると、呪術的な風貌の地形の中にうずくまった都市や河川が見えてくるのだが、そのコスモロジカルな感覚が時代とともにすこしずつ薄らいできたようだ。
ともかく、近代国家の宿痾ともいえる専門行政の壁をのりこえながら、文明基盤技術の情念と体系を築き直さねばならないだろう。それは、正邪美醜の葛藤する環境文明史の視座にたって、文明の大義を探し求める道になるにちがいない。
東京工業大学名誉教授 中村良夫