川展 日本河川風景二十区分 ―国分かれて山河似る―

区分:②北部北上・渡島

区分:②北部北上・渡島

区分:②北部北上・渡島
特徴:山地の標高は低く、単調な河川
湖沼が多く、潟湖が見られる場合もある
河口閉塞による浸水被害の歴史あり
河川:尻別川、後志利別川、高瀬川、岩木川、馬淵川

(1)迷走する川

知花:ここは①北海道主部に比べると山・谷が若干多いんですが、山の標高は低く、単調な河川が多いです。噴火湾や陸奥湾などの湾の入り組みや小川原湖、十三湖などの汽水湖があって、沼や湖も多いです。*小川原湖 pic.twitter.com/44NSPx7uJU
平野もそれほど広くないです。
*津軽平野と岩木川 pic.twitter.com/6qKTsnLT0C
この地域は山地の標高が低いということで、迷走する川があります。太平洋に出そうで日本海に出てしまう。一番太平洋に接近するのが、朱太川の支流ですが、図中小幌駅の北付近から水源が発して、ぐるっとやって、きわきわまで行きながら日本海に行くんですよね。
そうそう来馬川。山と谷が迫って来てますが、山が高くないので一定方向に流れているというより、あっちこっち行ってる感じですね。
ちなみに、朱太川の流れをさえぎる部分は、鉄道の難所でもあります。ここに「秘境駅」として有名な小幌駅(こぼろ)がありますね。また、そのすぐ東、同じ新生代の火成岩ですが(年代は異なります)、そこの室蘭本線は敷設に難儀して、複線化の時につけかえられています。
この朱太川は、「地図で見て美しい川番付」でも東の関脇になってます。

(2)水源が分かりやすい川たち

このエリアで一番印象に残っているのは、水源が分かりやすいということです。高瀬川上流は田んぼの中を流れていて最後は小川原湖に出る川で、割と単調ではあるのですが、源流のところにコップがあって水も飲めるんですね。*高瀬川源流(青森県) pic.twitter.com/L60mcWDTnc
お隣の馬淵川も同じようにこんな感じです。
*馬淵川源流(岩手県) pic.twitter.com/Fv2aRjQK2a
祠もあります。北海道の延長で、谷は決して深くないですね。区分1の北海道主部と何が違うかというと、地形がごちゃごちゃしてるんです。だだっぴろい平野もないですし。
馬淵川という名前の由来も、「まべつ」というアイヌ語だという説がありますよね。
馬淵川の伝二という悲しいお話もあります。伝二さんが嫁をもらったんですが、嫁が、「なんだこのクソ田舎」とか言って実家帰っちゃうんですね。伝二はやることがなくなったんで、ひたすら馬に乗ってたら馬の扱いが上手くなって、今度は殿様にかわいがられてお城に呼ばれるんです。
伝二が馬に「さざなみはどこ行ったんだい」と言ったら、馬が馬淵川の方へ行くんですね。それで殺されたのが分かるんですね。伝二はショック受けてそこで自殺しちゃう。最後、馬もリベンジで、家へ帰って前の奥さんを蹴り殺して、馬が淵に身を投げるところで終わります。
結局みんな死んでしまう。確かに悲しいお話ですね。
ところで写真を見ると源流にはお社があるようですが、何か信仰の対象になっているんだろうか?
弁財天が祀られてますね。
北上川の源流も岩手町の御堂観音境内の湧水といわれています。
全国の弁財天を巡っていますが、湧水スポットに祀られていることが多く、古来から水に対する畏敬の念があったのが分かりますね。

(3)水源探訪への情熱

ところで水源ってどうやって決めるんですか?
川によって水源の決め方はまちまちですね。分水嶺のてっぺんから測っているものもあれば、途中の湧き水がちょろちょろと見えましたというようなものもあります。
水源ほどいいかげんなものはないという先生もいますね。ある河川の流路延長が相互参照になっているのがあるそうです。河川便覧では出典が理科年表になっていて、理科年表を見ると出典が河川便覧になっている、というような(笑)。
ちなみに利根川の水源が大水上山の一番てっぺんにあるのは、私確認しました。利根川の河川延長322キロはあそこから測っています。
そこは地形的にはどういうところですか?
尾根上です。ここから谷が始まるという、しわの始まる一番てっぺんのところですよ。その向こう側は、阿賀野川とかね、信濃川の流域なんですけれども。利根川はそこから測ってる。
多摩川の水源の水干(みずひ)とかはね、湧いていそうな感じですよね。
多摩川の最初の一滴ですよね。意外と綺麗ですね。あれは誰かが決めたんですね。花崗岩から出る、ぽたぽた落ちる、これ水源だということで。
水源はおっしゃる通り色々だなあと思ったのが、琵琶湖から福井の方へ抜ける峠道のてっぺんの淀川源流の碑です。川は何もないですよね。だから多分気づいていない人も多いと思います。
四万十川の源流って人気ですけれど、四万十川の源流の碑が立っている横には川がとうとうと流れています。川がここから始まるという碑はありますが、「ここから始まる」ってなんだよっ、まだ上があるのに、というがっかり水源のひとつですね。
特に決まりはないんですかね?
どこが本川で、水源かっていうのは、人が勝手に決めたことで、極めて人為的な決めごとですよね。私からすれば水源は流域界全部ですよね。はっきり言ってしまうと人の決めた水源にはあんまり意味はないです。夢がないんですが。
水源って大体、河川整備計画の流域の概要に、「なんとか山に源を発し」って書かれていますよね、なんとか山の流れている一番太いので本川だと決めているんですけれども、九州の火山地帯に行くと、それじゃ分からないんですよ。
なんとか山に源を発している沢は無数にあるので。しかもどれも似たような大きさで。どいつが本川なんだというのは、筑後川も訳分からなかったです。筑後川の源流だって書いてあって、やったーと思ったんですけれど、明らかにそれより高い所に別の川が流れてて。そっちはそっちでまた源流って。
流域界の中で一番標高が高いところが、源流というわけでもないです。なんとなくここが本川っぽいかな、みたいなところの一番上流で決めている。利根川なんて水源のところは標高1800mちょっとくらいしかないんですけれど、大水上山よりもっと高いところはいっぱいありますからね。
変ですよね。淀川の流路延長もえらい短いんですが、それも琵琶湖を水源としているから・・・。だから河川密度とかを出すとおかしい値になっちゃいます。
そういう意味じゃ、武蔵野台地の源流は分かりやすくて良いですね。神田川の源流は井の頭の池ですね。
そうですね。湧水の河川は特定できるんですよ。
神田川だけでなく、目黒川も石神井川も、基本的に全部湧水河川ですからね、武蔵野台地は。
昔ヨーロッパの水源を見に行ったことがあるんですが、セーヌ川はナポレオン3世が、テヴェレ川はムッソリーニがモニュメントつくってましたね。
*テヴェレ川水源 pic.twitter.com/sWAkDIKULP
テヴェレ川には「ここからローマの神聖なる川が発する」と刻まれてました。水源をおさえるっていうのは国土を制するっていう感覚なんでしょうけれど、日本はそういう権力との結びつきがないですね。
ただテムズ川は「テムズ・ヘッド」っていって、権力とも政治とも関係ないさりげない碑が風景になじんでいてよかったですね。
*テムズ・ヘッド pic.twitter.com/Ja63vjILZj
日本の水源には弁財天か厳島神社が多いですね。政治力とは少し毛色が違う。
厳島神社なんですか?
厳島神社や市杵嶋神社が多いですね。
弁財天は分かります。日本的な感じですね。
民衆の信仰の対象なんですね。
郡上八幡などでも水路の出口に大体神様いてますよね。
あと、弘法大師が杖を突いて水が湧き出た、という伝説はよくありますよね。
日本中にありますね。
政治家のはないかもですね。
政治が入ってくる前に信仰の対象になっちゃってる訳だから……。
水源の祠っていうのは、地元の人が作ってるんですか?
国土交通省だったりして。
もともと何かあったんでしょうね。
まあそうですね。
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