川展 日本河川風景二十区分 ―国分かれて山河似る―

区分:③東北地方主部

区分:③東北地方主部

区分:③東北地方主部
特徴:本川は大規模な盆地と狭窄部を有しており、狭窄部の上流は氾濫常襲地となってきた
沿川の水利用は支川から取水することが多い。
河川:米代川、雄物川、子吉川、最上川
北上川、鳴瀬川、名取川、阿武隈川

(1)インチキクイズ?

学生にいつもクイズ出して絶対当てられたことのない、クイズです。「阿武隈川で4枚の写真撮ってきました。上流から順番に並べてください」 pic.twitter.com/rxms7W76l3
比較的理解してると、1、3、4、2だと言うんですね。1番が、谷が深くて水が少なそうだし、3番は水が多い。4番は石がごろごろしていて、2番は砂だから。何でか分からないんですけれど、2と4は逆に答える学生が結構いますね。4の方が下流に見えると。何でなんでしょう。
ビルが高くて4のほうが都会っぽいからじゃないですかね。
そうかも分からないですね。だけど答えは全然違って、一番上流は2なんですよね。答えは2、1、4、3。ネタをばらすとこうなります。 pic.twitter.com/hGha9SEEDB
那須の方が源流で、白河を経て、郡山の盆地に出ます。郡山の盆地のそろそろ終わりのあたりが②ですね。そこから再び狭窄部に入って撮った写真が①。
で、次は福島の盆地に出て、荒川という奥羽山脈から出てくる支流の巨大扇状地が礫を供給するので礫河川になって④。最後の最後に山を抜けるので舟下りができるという③。
同じようなクイズが多分最上川でもできます。北上川とか雄物川でもできますが、そこまでシャープじゃないので迫力に欠けますね。やるなら、阿武隈川か、最上川がいいですね。

(2)盆地出口にある日本で一番長い鉄道橋

先ほどのクイズの阿武隈川の福島盆地の写真ですが、盆地の出口の付近には、水害時にここまで水が来ましたよという看板が絶対出てきます。出口が塞がってるので、溢れるんですよね。*阿武隈川浸水被害 pic.twitter.com/nlNyhvnssU
同じように北上川で言うと一関になりますが、一関はもう溢れるのが分かってるので遊水地にしてます。河川の両側の田んぼが、この図面で見ると全部遊水池になっています。田んぼの中にある高架橋は東北新幹線です。*一関遊水地
thr.mlit.go.jp/iwate/jimusho/… pic.twitter.com/ulrSIMO7Yb
第1北上川橋梁ですね。日本で一番長い鉄道橋です。
一見すると橋梁はそんなに長いように見えませんが。
遊水地の田んぼの部分も増水時には水没し河川となるため、遊水地の部分も含めた橋梁で長くなっています
遊水地ができたのはいつ頃なんですか?
遊水地の形が見えてきたのは平成に入ってから。計画は前からあって、工事着手は昭和50年代だと思うんですよね。
新幹線が開通したのは82年なので、計画としてはもっと前からですね

(3)盆地・狭窄部の繰り返しの東北地方主部

北上山地と阿武隈山地の二つ、いずれも地層が古いんですよね。3億年前の、地球のプレートが南半球に寄ってるような時の片鱗を見せています。
この北上・阿武隈の二つの山地があって、奥羽山脈があって、出羽山地があって。これらが東西方向にギュッて圧縮されて。断面図を見るとこんな感じです。

この奥羽山脈と、北上高地・阿武隈高地の隙間が谷間になっているので、東北自動車道と、東北新幹線は全部ここを通ってます。ただ、これがずっと完全な谷かというと、実は盆地と狭窄部の繰り返し。
仙台平野が北上高地・阿武隈高地の間にあって、阿武隈川は郡山、福島の盆地を通って仙台で海に出ます。北上川も盛岡や一関のある北上盆地を通って、仙台で海に出る。盆地は奥羽山脈と北上山地・阿武隈山地の間に並んでいます。奥羽山脈は褶曲山脈の一番高いやつなんです。この辺は火山が乗っかって山らしい山になってますね。奥羽山脈の東側を東北新幹線が走ってますが、東から写真撮って新幹線の後ろに雪山を入れた高い奥羽山脈が、という写真が結構有名。西向きはあんまり撮らないですね。北上・阿武隈高地だとちょっと山が迫力ないですからね。出羽山地と奥羽山脈にはさまれたエリアも、同じように盆地列が続きます。雄物川では横手の盆地、最上川では米沢、山形、新庄の盆地があり盆地、狭窄部が繰り返されています。
山形盆地の出口にある大淀狭窄部は最上川の中でも特に大きく蛇行した狭窄部です。 pic.twitter.com/aNqC0Fw7Xc

 

ここも北上川の一関と同様、狭窄部上流は大久保遊水池と呼ばれる遊水地になっています。 pic.twitter.com/JJvZHdfOTR

(4)本川は穏やかで支川は急

この辺の特徴は、本川の流れが穏やかなことです。北上川や阿武隈川などです。あまり土砂も出しません。
福島市で阿武隈川に合流する荒川については、支流が結構急な扇状地をつくっています。荒川は、霞提もあることからもわかるように、明瞭な扇状地河川です。山が急なので、ここから入ってくる扇状地の河川というのは全部急流で、本川は盆地の東の端に押しつけられるんですね。

 

奥羽山脈の西側はそれぞれですね。最上川では、出羽山地から出てくる支流でも、寒河江川とかは結構でかい扇状地つくって最上川を東に押しています。
谷間を流れる穏やかな川で、支流が急っていうのがパターンの唯一の例外が最上川。最上川は、本川が扇状地河川なんですね。多分山が若干奥羽山脈にかかってるからだと思うんですが。
一方、馬見ヶ崎川は奥羽山脈側から流れ出て扇状地を形成し、最上川を西に押しています。川としては右行ったり左行ったりしてます。ただ本川は扇状地がない。
阿武隈川は最後、会津若松の会津の盆地まで盆地列が続くので。グーグルで出てくるのですぐ分かると思いますけど、一直線に平地が並んでいます。
あともう一つの特徴が昔の小出博先生の日本の地質構造区分の図を見ると東北地方の中央部を2本の線で区切ってるんですよ。石巻-鳥海線と相馬中村-鶴岡線。この領域は違う、胴切断層だと言って。
*日本の地質構造区分 小出博『日本の河川』 pic.twitter.com/8rXDuEXyZW
実際、断層は地質図を見ても出てきません。しかし、ここには確かに少し低いゾーンがあるんですよ。河川でいうと子吉川、鳴瀬川、名取川が入ります。
実際に子吉川ってまっすぐ流れ出ますよね。さっきみたいな盆地狭窄部の川ではないんです。鳴瀬、名取川も、仙台平野でまっすぐ出る川で、これも盆地狭窄部の川ではない。
鳴瀬川の上流と、子吉川の上流が非常に似ていて。これ僕好きなんです。名取川の上流の秋保の滝ですね。
*名取川秋保の滝(宮城県) pic.twitter.com/YbyOWPybt0
で、こちらは子吉川上流の法体の滝です。この二つがよく似ていて、映画版釣りキチ三平のクライマックスをここで撮ったって、地元では結構有名です。この二つがよく似てるんですよね。
*子吉川法体の滝(秋田県) pic.twitter.com/Dy3u03SFVY
小出博先生が言ってるように、東北の主部の特徴は盆地、狭窄部の繰り返しで、盆地が水害常襲地なんです。
これが関西の盆地へ行くと、由良川の福知山みたいなところは例外ですが、ほとんどのところは洪水常襲地ではないと、言われています。実は、関西の盆地でも調べると洪水被害はちょこちょこ出ますが、小規模なものが多いです。

(5)水利用は支川から

北上川では戦後にKVAと呼ばれるダム開発がありましたが、今の話と結びつけると、どんなことが言えそうですか?
まぁ支川ごとに洪水をおさえるっていうことじゃないかと。
本川は割と穏やかだけれど、支流は急流ってことですね。
それなりに流域もあるので、治水上も意味がありますよね。
北上川の四十四田ダムは別ですが、東北地方主部の大河川本川にはダムはあまりないですね。最上川も寒河江川などの支流にはありますが、本川にはないし、阿武隈川も本川にはないですよね。
ダムの位置は、地形との関係で決まりますので、本川の場合だと利根川の昔の沼田ダム計画じゃないですけれど、巨大なものになってしまう。コンクリートもそんなにたくさんは使いたくないですから。やはり地形を選んでるわけですよね。
小出博先生も言っていますが、東北の独特の水の利用の仕方があって、水資源の開発も支川なんですよ。
本川は割と穏やかだから、効率よく貯まらない?
本川が低いところにあって、その一番谷底のところってあんまり平野が広くないじゃないですか。すると結局そこでいくら貯めても、土地利用者はもっと高いところにいるわけですよ。そこにダム湖を持っていかなきゃいけないですよね。
支川は高いところにダムを作るから水を分配しやすいんですよね。一番典型的なものが、安積疏水。さっき出た郡山盆地にあり、阿武隈川が東側に寄ってるところですね
東側に寄ってるとどうなるかというと、本川の西側がだらだらした勾配のある地形になります。かつ、本川より高い訳ですよね。支川の扇状地になってますから。
そうすると本川から水を田んぼや畑に使おうと思っても持っていけないですね、そこで猪苗代湖からトンネルで水を引いて持ってきた方が、下から持ってくるよりも使いやすい訳ですよね。
そうでしたね。小出博先生の著書にもありましたが、本川の標高が低いんですね。本川の標高が低いから支川に頼らざるをえない。これは東北地方主部の特徴ですね。支川が勾配持っていて結構ポテンシャルがあるんですよ。
最上川の本川の上流部、米沢の上流だけ若干違います。このエリアが次の区分④上越・足尾にかかっているということと無縁ではないと思います。ダムはないですけれども。本川で急なのはそこくらいじゃないですか?だけどダムつくれるようなところではないですね。
ちなみにこれは農林水産省、農村振興局整備部設計課計画調整室の出している県別水土図という図です。赤丸が取水堰、赤線が農業用水を表していますが、これは岩手県の例です。
maff.go.jp/j/nousin/attac… pic.twitter.com/I8YbBW1Bbu
北上川流域では本川からではなく、西側の扇状地河川から水を引いて、田畑を灌漑していることがよくわかります。
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