川展 日本河川風景二十区分 ―国分かれて山河似る―

区分:④上越・足尾

区分:④上越・足尾

区分:④上越・足尾
特徴:山地の降水量が多いことに加えて、火山岩や花崗岩が広く分布し、流況が安定している。
山地の標高が高く、積雪も多く、水力発電が盛ん
河川:赤川、(羽越)荒川、阿賀野川
久慈川、那珂川、利根川

(1)真っ白な川原

知花武佳 河川研究者
区分④上越・足尾のエリアは、区分③東北地方主部から、棚倉構造線と呼ばれる構造線を越えて、西側にあたるエリアになります。この辺は、特に花崗岩が集中しています。

実は、区分③の阿武隈山地も花崗岩ですが、島津光夫さんという方が、棚倉構造線の延長は日本国と三面(みおもて)を結ぶ構造線だとしつつも、その線の北側にある朝日山地の花崗岩と阿武隈山地の花崗岩は特徴が違う、ということをおっしゃっています。

僕も朝日山地で見られる河相と阿武隈山地の河相は違うという印象を持っています。

花崗岩の分布と棚倉構造線(地質naviのデータに加筆)

安藤達也 ドボ博事務局/建設コンサルタント
ちなみに日本国というのは新潟県と山形県の境にある山の名前ですね。

磯部祥行 編集者
区分④の北の方は、朝日山地ですか?

知花武佳 河川研究者
そうです。朝日山地も花崗岩です。棚倉構造線の延長は、先ほどの日本国-三面構造線であるという説の他に、朝日山地東縁の大井沢構造線につながるという説もあり、僕が区分③と区分④の境界に用いているのはこちらの線です。詳しくはわかりませんが,酒田のあたりへ伸びるのではないかと思います。

羽越荒川(山形県)_撮影:知花武佳

知花武佳 河川研究者
一本北に行って、最上川の元支流で、朝日山系以東岳から流れる赤川です。これも川原は真っ白ですね。山の反対側には、寒河江川という最上川の支流がありますけれど、やっぱり花崗岩の川です。しかも破砕帯で、石がごろごろしています。

赤川(山形県)_撮影:知花武佳

知花武佳 河川研究者
さらに渡良瀬川も、いかにも花崗岩って感じです。

渡良瀬川(群馬県)_撮影:知花武佳

知花武佳 河川研究者
余談ですがこの花崗岩、よく見るとドリルで開けたような綺麗な筒状の穴が開いています。これは、削岩機で石を切り出した跡で、路面電車の石畳の切り出しにも関係しているようです。

北河大次郎 ドボ博館長
近くに石切り場がある?

知花武佳 河川研究者
写真を撮ったのが軌道用敷石の産地である沢入(そうり)の近くなので、このあたりのどこかに石切り場があったはずで、そこの石が流れてきたんだと思います。大きい石だと2mくらいありますね。
岡田幸子「路面電車軌道敷に用いられた軌道用敷石の特徴に関する研究」

 

知花武佳 河川研究者
なおこの真っ白さは、中国地方の花崗岩とは違いますね。群馬や山梨もこんな感じですが、こういう真っ白の花崗岩が多いのがこの区分の特徴です。

(2)「緑のダム」効果も地質次第

知花武佳 河川研究者
先ほどの赤川の写真も、渡良瀬川の写真も、水がほとんど流れていないのは、ここには写真のように古い発電ダムが山ほどあって、取水後に発電用の水路にバイパスする減水区間が多いからなんです。

赤川 泡滝ダム(山形県企業局)_撮影:知花武佳

 

渡良瀬川 沢入発電所取水堰(群馬県企業局)_撮影:知花武佳

知花武佳 河川研究者
 ということで、このエリアの2つ目のポイントは、棚倉構造線から南西に入った途端に発電ダムが増えることです。いくつか理由があって、まず花崗岩なので保水力があるということ。

北河大次郎 ドボ博館長
花崗岩に保水力がある?

知花武佳 河川研究者
花崗岩は、真砂(まさ)という砂になりますが、深層まで真砂になると水持ちがいいんです。虫明先生の研究で、地質別に流量の低減を調べたものがありますが、それによると一番水持ちがいい地質は第四紀火山ということです。
虫明功臣「日本の山地河川の流況に及ぼす流域の地質の効果」


知花武佳 河川研究者
第四紀火山というのは、富士山や浅間山などいわゆる活動している火山です。2番目が第三紀火山と花崗岩が同程度で続きます。第三紀火山はもう火山の形をしていない。例えば相模川の周りとか、昔海底火山で噴火したであろう玄武岩とかです。そして新しい堆積岩、古い堆積岩の順になります。つまり、花崗岩は結構水持ちがいいんですね。深層まで風化するから、風化した層に水を貯えることができます。

知花武佳 河川研究者
では、第四紀火山や第三紀火山はなぜ水持ちがいいのか。これは、軽石みたいな、穴だらけの、溶岩が固まったものをイメージしてもらえればよいかと思います。また溶岩の柱状節理などの節理が、水を保つともいわれています。

安藤達也 ドボ博事務局/建設コンサルタント
地質そのものの話もありますが、森林の有無によっても保水力は変わりますか?

知花武佳 河川研究者
本多静六先生かな。荒廃した多摩川上流に、水源林として山に木を植えて、それから水もちがよくなったという話があります。今でも木がないと水がない、つまり「緑のダム」の議論があります。

知花武佳 河川研究者
ただ、全く逆の話もあります。中国地方のある溜め池で、周りがハゲ山なので木を植えたら、溜め池が空っぽになってしまい、慌てて木を切ったということです。

知花武佳 河川研究者
どういうことかというと、木は水を吸うので、人と木で水のとりあいになってしまったのです。それではなぜ多摩川上流でうまくいったかというと、根を張って、土を耕して、落ち葉が土壌を形成し…これには、ものすごく時間かかりますが…、その土壌が保水力を発揮したからなんです。

知花武佳 河川研究者
しかし花崗岩地質のところは、ハゲ山でも水持ちがいいので、木を植えると逆効果になるということもあるんですね。

皆川典久 東京スリバチ学会
緑のダムの効果も地質次第ということですか。

知花武佳 河川研究者
そう思います。あと、もう一つ、区分④の日本海側は、積雪が多いエリアでもあるので、雪の水も多く蓄えられています。

(3)ダム銀座

知花武佳 河川研究者
区分③東北地方主部と違って、区分④では、本川にダムが作られるようになります。一方、東北地方主部の川は、支川に取水堰や大きなダムをつくる支川利用です。

三橋さゆり 河川管理者
戦後の北上川の総合開発事業でつくられた五大ダムのうち4つが支川ですね。

安藤達也 ドボ博事務局/建設コンサルタント
区分④には、「ダム銀座」ともよばれる只見川も含まれています。縦断図を見ると、いかにダムが多いかがわかります。

出典:阿賀野川河川事務所HP

知花武佳 河川研究者
山が高くて、雪が多いという2点が大事で、さらに花崗岩というのも、水力発電が多いことにプラスに働いているかと思います。

安藤達也 ドボ博事務局/建設コンサルタント

水力発電の出力数も大きいダムが多いです。出力数日本一が只見川の奥只見発電所(奥只見ダム)、次が田子倉発電所(田子倉ダム)ですね。※揚水発電を除く貯水池式発電の発電所の出力数

田子倉発電所・田子倉ダム_撮影:安藤達也

北河大次郎 ドボ博館長
只見川は、戦前から発電ダムを建設していますが、やはり重要なのは戦後復興期の総合開発計画による電源開発ですね。奥只見や田子倉の建設も、その一環です。

安藤達也 ドボ博事務局/建設コンサルタント
当時は、日本を立ち直らせるための大プロジェクトでしたが、今ではダム湖周辺の美しい景観を楽しむ観光客でにぎわっています。

(4)河川の環境問題

知花武佳 河川研究者
環境問題でいうと、赤川で樹林化問題という問題が起きています。

赤川(山形県)_撮影:知花武佳

知花武佳 河川研究者
僕が河川の研究室に入った1997年には、多摩川の樹林化が問題になっていました。川原中が木だらけになるということです。

特に、写真に見えるハリエンジュ、別名ニセアカシアですね。アカシアに似た白い花が咲くからニセアカシアです。この樹木、何が強いかというと3つありまして。

1つ目は元々緑化のために北米から持ってこられたもので、乾燥地に生えるのでそんなに水をやらなくても育つんですね。

2つ目が、マメ科なので窒素固定により空気中の窒素を自分で栄養に変えられる。窒素固定菌を飼っているので、貧栄養のところでも育ちます。緑化には向いていますが。

3つ目は、栄養繁殖といいますが、豆が落ちてそこから芽は出るけれど、豆以外にも根っことかからも繁殖できるんですね


知花武佳 河川研究者
だから河川管理者が盛んに切っていますけど、最初の頃何も知らずに全部切った時は、逆に増えたこともありました。大体、林が全部同じ高さですが、全員同じ時に一斉に出てきたクローンなんですよね。要は地中の浅いところで、根を伸ばして、そこから根萌芽(こんぼうが)といって芽が出てくるんですね。なので、根っこで繋がっていることも多いです。

皆川典久 東京スリバチ学会
洪水で流されたりしないんですか?

知花武佳 河川研究者
ある程度は流されることもありますけれど、今度は流れ着いた所でまた増えますから。むしろ洪水が樹林化を招いているというのもあります。

皆川典久 東京スリバチ学会
これだけ育つと十何年っていうオーダーですか?

知花武佳 河川研究者
そのくらいですね。ある程度まで生えると、洪水が来ると逆に木にとってはプラスなんですよ。というのは、木が生えている所と生えていない所に水が流れると、前者は減速域で、後者は加速域になるので、減速域で洪水の土砂が溜まります。そうすると、木がない方ばっかり掘れていきます。

知花武佳 河川研究者
木が生えている方には土砂が溜まっていくので、高くなっていき、生えてない方が掘れて低くなっていきます。次の洪水はまた低くなっている方に集中するから、これをどんどん繰り返していくと、段差が広がるんです。これを「ポジティブフィードバック」といいます。一回段差がついてしまうと、どんどん広がるんですよね。

知花武佳 河川研究者
特に、僕が知っている中で有名なのは、赤川と信濃川、千曲川、多摩川。西に行くとだんだんハリエンジュじゃなくなるんですけれども。また北の方は、あんまりないですね。急に増えるのがこの区分からといえそうです。

北河大次郎 ドボ博館長
元々は植樹したものなんですね?

知花武佳 河川研究者
ええ、山地に。街路樹でもあります

北河大次郎 ドボ博館長
うまくコントロールできれば、堤防の代わりに使えそうですがね。

知花武佳 河川研究者
確かに、河畔林、水害防備林という考え方がありますよね。それで、これを堤防代わりにという話があるんですけれど、とにかく広がるので、結局ほとんど森になってしまう。関東の荒川もひどいです。

知花武佳 河川研究者
堤防の上だけに木が生えてくれたらいいんですけれども、広がって大体川原の8割を占めてしまって。ある意味堤防は守れると思いますけれども、その分、川が水を流す容量が減ってしまうので、川があふれる危険性が増してしまいます。

知花武佳 河川研究者
あと、アカシアの蜂蜜は大体ニセアカシアの花の蜜から取っているので、木を切るといった時に養蜂業者が反対する地域があります。信濃川なんかは随分反対されたみたいですね。

知花武佳 河川研究者
それと河川の環境を守るために「自然再生」といって木を切るので、知らない人からしたらせっかく木があるのに、何で自然再生かと不思議に見えるようです。

北河大次郎 ドボ博館長
一番効果的な切り方は、どういうやり方ですか?

知花武佳 河川研究者
今は根っこを掘り起こして、細かい根っこも全部手作業で取り除いています。多摩川もそうしています。ウッドチップを撒くとか色々実験もしましたが、今のところ完全に取り除いて、オギ原にするという方法が多摩川で行われていますね。オギ強いですから。

北河大次郎 ドボ博館長
これより強いものを…。

知花武佳 河川研究者
先に覆ってしまう。ただそれがいいのかどうか。僕はオギ原よりは、ハリエンジュ林の方が好きな時もありますね。下を歩けるので。オギ原になっちゃうと中に入れないですから。利根川の支流の渡良瀬川もハリエンジュの多いところで。一生懸命木を切っているところです。渡良瀬川は樹林帯の真ん中に水路を掘って、そこに洪水を誘導したり、吹き飛ばすという作戦を取っています。対策は、地域地域で色々です。

渡良瀬川(群馬県桐生市)_撮影:知花武佳

知花武佳 河川研究者
もともとこの水が流れているところは全部ハリエンジュ林で、ハリエンジュを流すためにここに人工的に水路を掘って、そっちがメインストリームになりつつあります。

知花武佳 河川研究者
僕の印象ですけれど、棚倉構造線を西に行った途端にハリエンジュが増えて、花崗岩がゴロゴロしはじめて、ダムが増える。

知花武佳 河川研究者
学生の研究ですが、ハリエンジュが川原で増えていくには、完全に砂の川原よりは、石の層がある川原の方が適しているそうです。石の層があり水が抜けて空気が通るという環境が、窒素固定菌にはいいみたいのと、巨礫があると洪水時も安定して根元から流されることがないからだそうです。
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