武蔵野台地を東西に切り裂く鉄道。通常<循環器系>は、<骨格>や<臓器>の間をすり抜けるように、くねくね曲がるのが普通だが、この東京の<大動脈>は、立川・東中野間の27.4kmを定規で引いたかのように、ひたすらまっすぐ進む。もともと起伏の少ないエリアで、地形的な障害物も井の頭池や野川支流の源泉などに限られていることが幸いしている。
しかし新宿から内側に入ると、一転して外濠や市街地の狭い隙間を縫うように、細かいカーブが連続する。そして飯田橋駅(1938)では、プラットホームまでもがカーブして築かれる。移りゆく東京を鋭い目で観察した今和次郎は、そこに新たな美の世界を見出したようである。
「飯田橋駅ホーム。牛込見附と飯田橋とを繋ぐ800尺のカーブは曲線美の新感覚だ。」(今和次郎)
壁で視界がさえぎることなく、両側を開放した曲線状の島式プラットホームは、玄人好みの造形美といえよう。ただ今は、ホーム上の施設が邪魔をして、この曲線美を十分に堪能することはできない。
飯田橋駅から先は、江戸時代に神田川の氾濫を防いだ堤防の上を、鉄道が走る。その先、御茶ノ水駅から神田・東京駅に至るカーブでは、当時では珍しい、橋桁自体がカーブを描く万世橋架道橋が架かる。一見何の変哲もない桁橋だが、都心をカーブですり抜ける首都高の連続高架橋など、戦後技術への展開を考える上では、見逃すことのできない鉄橋である。(北河)
引用
今和次郎:新版大東京案内、中央公論社、1929.
種別 | 鉄道 |
所在地 | (旧甲武鉄道の範囲のみ)東京都千代田区・文京区・新宿区・中野区・杉並区・武蔵野市・三鷹市・小金井市・国分寺市・府中市・国立市・立川市・日野市・八王子市 |
規模 | (旧甲武鉄道の範囲のみ)延長44km |
管理者 | JR東日本 |
設計者 | 甲武鉄道株式会社 |