かつて武蔵国と下総国の「両国」を結び、「日本大橋盡」の番付では行司役を担った名橋。17世紀の架設以降、江戸下町のシンボルとして親しまれ、川開きの花火も行われるなど、庶民とともに歴史を刻んできた。相撲の殿堂・両国国技館も近い。
「両国橋掛替工事既に終りたるを見る。新橋は鉄骨橋上に聳えざるを以て形大に好し。」(永井荷風)
永井荷風は、関東大震災後に新たに建設された両国橋の形に、好感を抱いていたようである。
一方、歴史のロマンにひたろうとここを訪れる現代人にとっては、このデザインは少々そっけなく映るようだ。
「両国橋の橋影を波の上から見るのをたのしみにしていた。が、いまの両国橋はみごとなほどすっきりしていて、古めかしい詩情をよせつけない。ロマンティックなアーチでなく、簡潔な桁橋なのである。桁橋のなかでも力学そのものといったゲルバー式であるため、硬質のペンで横に線を一線ひいただけのように、あっけなくもある。」(司馬遼太郎)
実は、両国橋の近代の歴史のロマンは、別の場所で味わうことができる。関東大震災で被災した銘板やその他部材を保管する震災復興記念館、そしてかつての桁を再用した南高橋である。
「新川二丁目の亀島川に架かる南高橋は、関東大震災でオシャカになった三連トラス式の両国橋(明治38年築)のセンター部を補強した・・・レジェンドな鉄橋。白銀の美しい橋」(泉麻人)
構造躯体の被害は少なかったといわれるが、<やけど>を負った後に<移植手術>され、その後80年以上、南高橋として車両交通を支えている、まさに「レジェンドな鉄橋」である。(北河)
荷風全集第21巻、岩波書店、1963.
司馬遼太郎:街道をゆく36本所深川散歩・神田界隈、朝日文芸文庫、1995.
泉麻人:大東京23区散歩、講談社、2014.
種別 | 道路橋 |
所在地 | 東京都中央区・墨田区 |
構造形式 | 鋼製 桁橋 |
規模 | 橋長164m |
竣工年 | 1932年 |
管理者 | 東京都 |
設計者 | 東京市 |