JR北陸本線の敦賀~南今庄間を貫く北陸トンネルは、わが国で最初に長さ10kmの壁を越え、延長13,870mに達したトンネルである。工事は、北陸本線の路線変更による防災強化と勾配改良、複線化・交流電化を兼ねて1957(昭和32)年に起工し、立坑や斜坑を利用して工期の短縮を図るなどして、1962(昭和37)年に完成した。複線断面による長大トンネルの施工技術を確立することは、その直後に計画された東海道新幹線のトンネル工事の成否をも握っていた。
日本国有鉄道岐阜工事局では、1961(昭和36)年7月31日にトンネルの貫通を記念して絵葉書を発行した。その内容は、坑外の作業基地の全景や、ドリルジャンボ(複数のブームに削岩機を取り付けた自走式のトンネル工事用大型機械)を用いた機械化施工、全断面掘削などのさまざまな掘削工法、スチールフォームによるコンクリート打設などの様子を収録したもので、これによってトンネル工事の経緯を振り返ることが可能である。
北陸トンネルの掘削工法は、当初、トンネル断面を一度に掘削する全断面工法を複線断面トンネルとしては初めて適用する計画であったが、地質が予想よりも悪かったために一部の区間のみで用いられたにとどまった。底設導坑先進上部半断面工法は、やがて建設される新幹線の複線断面トンネルでも標準工法となり、立坑・斜坑の利用とともに、長大トンネルが次々と完成する時代を迎えることとなるのである。(小野田滋) (「日本鉄道施設協会誌」2008年12月号掲載)
Q&A
底設導坑先進上部半断面工法って何ですか?
漢字で書いた通りで、一番下(底部)に導坑を先進して掘削し、そのあと上半分の断面を掘ってトンネルの断面が完成します。底設導坑先進上部半断面工法は、底設導坑を先進させることによって前方の地質をあらかじめ把握し、併せて水抜坑としても役立つため、自立性の悪い地質にも適用できるトンネル掘削工法として普及しました。(小野田滋)
”北陸本線・北陸トンネル”番外編
師匠。トンネルを掘っていて、温泉が出てくることってありますかね?
あるよ。実は、北陸トンネルでも掘ったら温泉が出てきたんだ。
そりゃラッキーでしたね。
しかし、温泉や高温岩体に遭遇すると工事ができなくなってしまう。吉村昭の小説に『高熱隧道』というノンフィクション小説がある。
北陸トンネルでは、どうしたんですか?
温泉の権利が、果たして工事を行った国鉄にあるのかどうか、問題になったんだ。
温泉の第一発見者だから、権利はあるでしょ。
しかし、温泉法上の解釈としては、国鉄は温泉を見つけるために北陸トンネルを掘ったわけではないので権利は無い。
ややこしい話になってきましたね。
むしろ、北陸トンネルの工事によって、近くにあった新保鉱泉の源泉が涸れてしまって、補償問題になってしまった。
それは困りましたね。
そこで、話し合いをして、トンネルから導水管で敦賀まで温泉水を引き、新しい温泉施設を設けることにしたんだ。
うまく解決して良かったですね。
その名もズバリ、「トンネル温泉」だ。
トンネル好きには効能がありそうですね。