ドボ鉄020アメリカ系トラスの登場

絵はがき:高山本線・新神通川橋梁(富山市)


高山本線の西富山~富山間の新神通川橋梁は、「新」と称しているが、実は神通川に架かっている最も古い鉄道橋である。今回紹介する「神通川鉄橋」の絵葉書は、北陸本線の新神通川橋梁として、1908(明治35)年に完成した際の頃の絵葉書で、支間205フィート(約62m)のプラットトラスを用いて神通川を渡河した。当時、神通川の河川改修事業が進められていたため、橋梁も改修後の新しい神通川に架設されることとなり、「新神通川」を名乗った。
日本の鉄道橋梁は、1897(明治30)年前後を境としてイギリス系からアメリカ系へと転換し、1898(明治31)年には、アメリカの橋梁技術者であるセオドア・クーパー(1839~1919)と、チャールズ・コンラッド・シュナイダー(1843~1916)に対して日本向けの橋梁の設計が依頼され、支間100フィート~300フィートクラスのトラス橋の標準設計が、1989(明治31)年~1903(明治36)年にかけて完成した。
アメリカ系のピントラスでは、アイバーと呼ばれる文字通り端部が目玉のような形をした部材を用い、リベット接合が普及するまでのトラス橋で多用された。特に、支間200フィートのトラスはシュウェドラートラスと呼ばれる曲弦トラスを使用し、中央の3格間の上弦材が水平となっているのが特徴である。
アイバーを用いたピントラスは、格点が弛緩(しかん/ちかん)するなど保守管理に難があり、ほどなくリベットトラスへと移行した。新神通川橋梁は、1960(昭和35)年に下流方に北陸本線の新橋梁を架設したため高山本線に転用された。現在は、上流方に平行して北陸新幹線の神通川橋梁が完成し、明治、昭和、平成の三代の橋梁が並んでいる。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2014年9月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

河川改修で鉄道の橋を架け直すということは、よくあるんですか。

A

日本は蛇行して流れる川が多いので、洪水の被害を受けやすい平野部では、曲がりくねっている流路を直線にしたり、流路を短絡して流れやすくする河道整正が行われています。鉄道橋を新設または架替えた例は、新神通川橋梁のほかにも、秋田の雄物川、新潟の信濃川、愛知の豊川、大阪の淀川、広島の太田川など全国のあちこちにあります。新しく開削した水路は、洪水に備えて川幅も広く確保され、流水を阻害しないように橋脚の数も最小限にしなければならないので、それなりに大きな径間の橋梁が選択されることになります。(小野田滋)


”高山本線・新神通川橋梁”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

シュウェドラートラスって、なんかドイツ語っぽいですね。

師匠

その通りだ。ドイツ人の橋梁技術者のヨハン・ウィルヘルム・シュウェドラーが考えたトラス橋だ。

小鉄

なんでアメリカ系トラスなのにドイツ人なんですか?

師匠

考えたのはシュウェドラーだったが、アメリカの橋梁でよく使われた。

小鉄

どんな特徴があるんですか?

師匠

少し説明が難しいが、トラスの材料を節約するために、中央を少しへこませて、中央の垂直材に圧縮する力を集中させた構造のトラス橋だ。

小鉄

なんだかイマイチわかりませんが、橋の中央をへこませると不安定にならないんですか?

師匠

原理的には正しいんだが、たしかにお前さんが言うように橋が不安定な格好になってしまう。

小鉄

新神通川橋梁の写真もまん中がへこんでいるように見えますけど。

師匠

それは目の錯覚だ。ただ、日本に輸入する時に、まん中がへこんでいると格好が悪いので、中央の上弦材(じょうげんざい)が水平になるように設計変更したと言われている。

小鉄

上弦材ってどこのことですか?

師匠

トラスの上に横方向で配置される部材を「上弦材」、トラスの下に横方向で配置される部材を「下弦材(かげんざい)」と呼んでいる。

小鉄

新しいトラスを発明したら、自分の名前が付きますかね?

師匠

付くかも知れんが、「コテツトラス」では、なんだか弱そうだな。

小鉄

そんなことありませんよ。山本小鉄並に強いですよ。

師匠

お前さんもずいぶん昔のプロレスラーを知ってるな。さては昭和の生まれだな。

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