ドボ鉄026わが国最初のシールドトンネル掘削機

絵はがき:羽越本線・折渡トンネル(秋田県由利本荘市)


日本におけるシールドトンネルの歴史は、1917(大正6)年に着工した羽越本線・羽後岩谷~折渡間の折渡トンネルに始まる。折渡トンネルの工事は、膨張性地質による強大な地圧に阻まれ、これを克服するために、わが国最初のシールド工法が採用されることとなった。掘削機の設計は、鉄道院総裁官房研究所が行い、のちに帝都復興院技師、東京帝国大学土木工学科教授、土木学会会長、溶接学会会長などを歴任した田中豊(1888~1964)がこれを担当した。
「折渡隧道掘鑿用構盾(二十四呎二吋)背面」と題した1920(大正9)年4月撮影の絵葉書には、現場の坑外で組み立てられた外径24フィート2インチ(約7.4m)のシールド(構盾または盾構)がおさめられ、人力掘削による開放型シールドの構造がよくわかる。
掘削機は横河橋梁製作所(現在の横河ブリッジ)で製作されて現場で組み立てられたが、初めての試みということもあって、掘削時の姿勢制御が難しかったと伝えられる。しかし、工夫と熟練を重ねて次第に威力を発揮し、延長200m弱を掘削してその役割を終えた。
折渡トンネルは、1972(昭和47)年に電化改築工事が行われた際、 トンネル内から埋めたままになっていた掘削機が発見された。その一部は、さらに交通博物館を経て鉄道総合技術研究所に引取られ、現在は同所の講堂前に展示されている。シールド工法は、戦後の地下鉄工事などで普及し、世界に誇る技術として発展を遂げたが、その原点がこの掘削機であった。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2010年3月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

シールドトンネルは、だれが発明したんですか?

A

フランス人で、革命によってイギリスへ亡命したマーク・イザムバード・ブルネル(1769~1849)という技術者が発明しました。フナクイムシが木材を食べながら、その後ろを殻で固めているのを見て考案したと言われています。ブルネルは1818年に特許を取得して、1843年にロンドンのテムズ川に河底トンネルを完成させました。このトンネルが世界最初のシールド工法によるトンネルで、初めは人道トンネルとして利用されていましたが、現在ではロンドン地下鉄のイーストロンドン線のトンネルとして使われ続けています。(小野田滋)


”羽越本線・折渡トンネル”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

シールド工法って、地下鉄で使うんじゃないんですか?

師匠

よく誤解されるが、地下鉄で使うと決まっているわけではない。

小鉄

だって、地下鉄以外で使ったって話は、あまり聞きませんよ。

師匠

もともと軟弱な地盤にトンネルを掘るための施工法だから、結果的に、そうした地盤で工事が行われる地下鉄でよく使われているということだ。

小鉄

ということは、折渡トンネルのように、山岳トンネルでも使ったことがあるんですか。

師匠

折渡トンネルの次は、1926(大正15)年に丹那トンネルの導坑で小断面のシールド機械を使って、そのあと1939(昭和14)年に関門トンネルの本坑で使った。

小鉄

地下鉄ではどこが最初だったんですか

師匠

1957(昭和32)年に完成した丸ノ内線の首相官邸附近の工事で、ルーフシールドと呼ばれる施工法が用いたのが最初だ。

小鉄

じゃあ、銀座線の工事ではシールド工法は使わなかったんですか?

師匠

昭和時代戦前期の地下鉄工事では、使われなかった。トンネルも浅かったので、開削工法を使って工事をした。

小鉄

「かいさく」工法ってなんですか?

師匠

「開削」と書いて「かいさく」と読む。英語では「カット・アンド・カバー」と称していて、掘って被せる。つまりいったん地盤を上から掘って、露天の状態でトンネルを構築して、土を被せて完成する。

小鉄

でも露天掘りの地下鉄工事なんて、見たことないですよ。

師匠

道路に覆工板を敷いて、その下で工事をしているから気が付かないだけだ。

小鉄

そう言えば、時々、道路に板を敷きつめた工事現場を見かけますね。

師匠

その下は空洞になっていて、地下で工事をしているはずだ。

小鉄

えっ、板の下は空洞なんですか。僕は高所恐怖症だから知らなきゃよかったな。

師匠

もう遅いよ。

古写真
シールド設計概要シールド設計概要(写真・図面)
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