ドボ鉄068めざせインターアーバン

絵はがき:阪神電気鉄道本線・淀川橋梁(大阪市)


 阪神電気鉄道は、神戸と大阪を結ぶ摂津電気鉄道として1897(明治30)年に設立されて軌道条例(のち軌道法)に基づいて特許を取得した。当時、アメリカでは都市間を結ぶ高速電気鉄道としてインターアーバンが発達しつつあり、経営者のひとりであった外山脩造(1842~1916)は、かつて渡米して電気鉄道の発達についても見聞を広めていた。
 外山は1899(明治32)年6月に、アメリカの大学で機械工学を学んだ経験のある三崎省三(1867~1929)を技術長に迎え、ただちにアメリカへ派遣して電気鉄道の調査にあたらせた。三崎は「復命書」の中で、電気方式は単線架空式が最も優れていること、軌間は1435mmが一般的であること、最高速度は時速40マイル(約65km/h)に達することなどを報告し、外山と三崎の間で新しい電気鉄道のコンセプトが共有された。
 摂津電気鉄道は、三崎を採用した直後の1899(明治32)年7月には社名を阪神電気鉄道に改めて開業をめざしたが、従来の電気鉄道しか知らない役員からは、路面電車のままで充分であるとする意見も根強く、軌道条例の制約の中でインターアーバンを実現することは困難を極めた。
 そこに助け船を出したのが、当時、逓信次官でのちに初代土木学会会長となった古市公威であった。古市は、自身が内務省土木局長時代に軌道条例の成立に関わったが、時代も変わったので、路線のどこか一部が道路上にあれば良いとする解釈を示し、軌道条例のままでインターアーバンをめざすこととなった。
 阪神電気鉄道は、1905(明治38)年に大阪(出入橋)~神戸(三宮)間が全通したが、「新淀川阪神電車進行」と題した絵葉書では淀川に幹線鉄道並の堂々たる複線トラス橋が架かり、広軌の線路を走る電車も大型のボギー車が写っており、軌道条例の制約の中で高規格の電気鉄道をめざした阪神電鉄の意気込みを今に伝えている。
三崎はのちに阪神電気鉄道代表取締役に就任し、専用軌道区間の拡張、車両の大型化、長編成化、高架化などの企業努力を重ね、軌道条例の制約を克服して阪神間にインターアーバンを構築した。 (小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2019年3月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

インターアーバンって何のことですか?

A

厳密な定義はありませんが、一般に「都市間を結ぶ高速電気鉄道」と認識されています。ドイツ語風に「インターバーン」と呼ばれることもありますが、「都市の」という意味の「urban」(アーバン)を含む「interurban」という英語です。「高速電気鉄道」といっても、現在の新幹線のような「高速」ではなく、「路面電車よりも高速」という意味なので、現在の路面電車を除く大都市圏の鉄道はほとんどが「インターアーバン」ということになります。インターアーバンは1900年代に電気鉄道が普及すると特にアメリカ東海岸や五大湖周辺で発達し、都市内は路面電車、都市間は専用軌道を高速で走ることによって、(アメリカの鉄道では)中距離の都市間ネットワークを構築しました。アメリカのインターアーバンは、航空機や自動車の発達によって廃れてしまいましたが、その影響を受けた日本の電気鉄道は都市近郊の高頻度・高密度の通勤通学輸送を担う交通機関として発達を遂げ、現在に至っています。(小野田滋)


”阪神電気鉄道本線・淀川橋梁(大阪市)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

今日は、師匠に「ししょう」のことを教わりにきました。

師匠

今さら何だ。

小鉄

阪神電鉄の淀川駅に展示されているこれなんですが、何でも古い淀川橋梁の「ししょう」とかです。

師匠

ああこれか。

小鉄

師匠のお宝か何かですか?

師匠

何を言っておる。「支承」と書いて橋を支える支点のことを示す専門用語だ。

小鉄

これで橋の重さを支えてるってことですか?

師匠

切り取られた姿だからわかりにくいが、「シュー(shoe)」とも呼ばれ、漢字は「沓」の字を当てるから「クツ」と呼ぶ人もいる。橋を支えるための重要な部分だ。

小鉄

でも、よく見ると左右で形が違いますよ。

師匠

いいところに気がついたな。橋の支承は左右両側にあって、淀川駅では固定支承と可動支承の両方をセットで保存していることになる。

小鉄

どうして固定と可動がセットなんですか。

師匠

桁橋やトラス橋のように2点で橋を支える場合は、片方は支承が動かないように固定支承とする。

小鉄

橋が動くってことですか?

師匠

橋の上を列車が通るたびに橋はわずかにたわんで変形するし、温度の変化によってもわずかに伸び縮みするから、固定しておかないと少しずつ移動してしまう。

小鉄

なるほど。

師匠

特に規模の大きい橋になると、変形量も大きくなる。

小鉄

だったら、両方を固定しておけばいいじゃないですか。

師匠

変形を完全に抑えるためには、それなりに頑丈な構造にしければならず、設計も難しくなるが、片方の支承を動くようにしておけば変形に対して自由に追従できる。

小鉄

それが可動支承ですね。

師匠

淀川駅の支承は、写真の左側が固定支承、右側が可動支承だ。

小鉄

あっ、ほんとだ。右側の支承はローラーがあって、上の部分が転がるようにできてますよ。

師匠

支承の部分は、文字通り縁の下の力持ちで、橋の下に隠れて目立たない部分だから、こうして構造をじっくり観察できることはありがたい。保存してくれた関係者に感謝だ。

小鉄

僕も師匠を支える縁の下の力持ちということで、師匠の支承みたいな存在ですよね。

師匠

お前さんはまだまだ未熟者だから、どちらかと言えば「支障」だな。

小鉄

💢師匠が勝手に動かないように、固定師匠にしておきますから。

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