ドボ鉄091碓氷川に架かる鉄筋コンクリートアーチ橋

絵はがき:信越本線・新碓氷川橋梁(群馬県安中市)


 群馬県と長野県の県境に位置する碓氷峠は、中山道の昔から難所として知られ、1893(明治26)年に開通した信越本線も横川~軽井沢間でアブト式と呼ばれるラックレール方式の鉄道を用い、66.7‰の急勾配を登坂した。このため、歯車を備えた専用の機関車を使用し、単線運転だったこともあって鉄道輸送の隘路となっていた。
 ラックレールは保守管理に手間がかかり、1956(昭和31)年には国鉄高崎鉄道管理局によって「碓氷白書」がまとめられ、抜本的な対策を進言した。このため、複線の新線を並行して建設し、老朽化した構造物の取り替えと、懸案であったアブト式から一般の粘着式運転への改良工事が実施されることとなり、国鉄信濃川工事局により、1961(昭和36)年4月に着工して1963(昭和38)年に新線に切り替え、アブト式は70年間におよぶその使命を終えた。
 新線には碓氷川を跨ぐ鉄筋コンクリートアーチ構造の新碓氷川橋梁が新設され、支間70.0m、ライズ(スプリングラインとアーチ天端の垂直高さ)9.0mの扁平な開腹アーチ橋として完成した。1966(昭和41)年7月2日に複線化されて、同年10月1日には上野~長野を結ぶ特急「あさま」が運転を開始し、所要時間約3時間半で結んだ。
 特急「あさま」の運転開始を記念して国鉄東京鉄道管理局が発行した絵葉書には、「碓氷橋を快走する電車特急“あさま号”」と題して新碓氷川橋梁を通過する特急「あさま」の姿がおさめられ、碓氷峠に新たな時代が訪れたことを告げた。
 この新線も、1997(平成9)年に北陸新幹線の長野開業と同時に廃止され、遺された構造物は碓氷峠の大自然に抱かれて静かな時を迎えている。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2015年4月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

粘着式運転って何ですか?

A

列車は、鉄のレールの上で鉄の車輪を回転させて走りますが、レールと車輪の接触面に作用する接線方向(走行方向)の力を鉄道分野では「粘着力」と呼んでいます(接着材のような「粘着力」という意味ではありません)。粘着力が発生することによって車両は空転せずに前進できますが、これを「粘着式運転」などと呼んでいます。一般の鉄道は粘着力のみを利用して走っていますが、碓氷峠のような急勾配では粘着力だけでは登坂が難しいため、補助手段としてラックレールを使っていました。しかし、機関車の出力が増えて重量が重くなり、電磁吸着ブレーキなどの保安対策が進歩したため、ラックレールを使わず、粘着式だけで登坂できるようになりました。粘着式で登ることのできる勾配の限界は、車両の出力や編成、重量などの条件によって大きく異なりますが、箱根登山鉄道(神奈川県)では碓氷峠の66.7‰を上回る80‰という急勾配を粘着式だけで登坂しています。(小野田滋)


”新碓氷川橋梁(群馬県安中市)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

ずいぶんスマートなアーチ橋ですね。

師匠

アーチ橋は、ライズ(raise)が低いほどスマートに見える。

小鉄

「ライズ」って、何ですか。

師匠

解説にもあるが、スプリングラインとアーチ天端の垂直高さのことだ。

小鉄

なんだか、よくわかりませんけど。

師匠

スプリングラインは、アーチの曲線が始まる支点を結んだ水平線のことだ。その水平線とアーチ天端までの垂直距離をライズと呼んでいる。

小鉄

………。

師匠

和弓にたとえるとわかりやすいかな。和弓の弦の部分がスプリングラインだ。そこに矢を構えて、弦を引く前の姿勢を想像するとイメージできる。

小鉄

つまり、その時の右手と左手の間隔がライズってことですか

師匠

そうだ。アーチの曲線が始まる始点の間の距離が、アーチの径間長になる。

小鉄

ってことは、その比率がわかれば、扁平なアーチかどうかが比較できるってことですね。

師匠

ライズを径間で割った数値を「ライズアーチ比」呼んでいる。径間をライズで割ることもあって「アーチライズ比」と呼んでいる。

小鉄

新碓氷川橋梁はどのくらいの値になりますか。

師匠

ライズが9メートル、径間が70メートルだから、ライズアーチ比は0.13になる。

小鉄

数字だけでは、よくわかりませんけど……。

師匠

新碓氷川橋梁の手前に架かっている煉瓦造の碓氷第三橋梁のライズアーチ比は0.42だから、それに比べるとずいぶん小さい数字だな。

小鉄

70年間で土木技術が進歩した証(あかし)ですね。

師匠

お前さんも、進歩した証が数字で示せるといいんだがな。

小鉄

最近、体重が増えたことぐらいですかね。

師匠

それは、ただの無精の証だ。

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