四国インフラ035 旧大正林道

森林鉄道の記憶


四万十川沿いの四万十町大正地区には、かつて森林鉄道が走っていた。国有林のある佐川山から大正町中心部を結ぶ木材搬出用の鉄道路線・大正林道である。ひっそりとした檮原川の谷間に走行音をとどろかせつつ、屏風のようにそそり立つ山々の等高線をなぞったりすり抜けたり巧みに下山する鉄道。その車体が走る姿はもう見られない。しかし、そのルートはいまもウォーキングトレイルとして部分的に残されている。

森林鉄道とは、明治後期から昭和中期にかけて全国的に普及した、木材搬出用の鉄道路線である。その規模は全1,174路線、延長8,180kmにも及んだ。森林鉄道以前の木材搬出は、主に河川をつかっていた。川を堰き止めて切り出した木材を溜め、一気に堰を取り払うことで鉄砲水のような水流を起こして木材を下流まで流し、じゅうぶん川幅が広い下流では、筏状に木材をつなぎとめて搬出した。しかし、この方法は人的被害もあり、また木材の傷みも激しく、水量(季節)に依存するという欠点があった。そのため、これに代わる近代的な搬送方法として森林鉄道が普及したというわけである。

大正林道の歴史は、大正12(1923)年に索道が切り開かれたことに端を発する。途中、坂島から下津井の佐川山へと延長し、昭和19(1944)年に檮原川に都賀ダムが建設されるによって軌道の一部がダム湖へ沈むため、軌道の付け替えが行われた。現在、下津井で見られる佐川橋(橋長82m、幅員2m、3径間鉄筋コンクリートアーチ橋)が建設されたのはこのときである。四国最後の森林鉄道としてその役目を終えたのが昭和42(1967)年。約半世紀にわたり、この地の林業を支えてきたことになる。登録有形文化財となっている佐川橋を歩いてわたり、昔日の音に耳を澄ませると、谷間にこだまする轍の響きが聞こえてくるようだ。(尾崎)

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参考文献

高知県教育委員会編:高知県の近代化遺産 -高知県近代化遺産(建造物等)総合調査報告書-,高知県教育委員会,2002.

種別 鉄道
所在地 高知県四万十町
竣工 不詳(佐川橋建設は、昭和14(1939)年説と昭和19(1944)年説あり)
備考 登録有形文化財(建造物):佐川橋 柿ノ木サコ橋 ユス谷川橋
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