四国インフラ044 三瓶隧道

近代化を運ぶ山中の<血管>


西予市の宇和町と三瓶町を結ぶ県道260号線。つづら折りの山道を分けていってゆくと、花崗岩の切り石積で入り口を固め、アーチ最上部にはキーストーンがはめ込まれた隧道が姿を現す。坑門に掲げられた扁額には、「三瓶隧道」の文字が刻まれる。

トンネルの掘削技術がまだ不十分だった頃、その建設は限られた。道路は山の等高線に沿って通し、やむをえない場合のみ短いトンネルをつくって道路をつないでいった。たとえば隣の八幡浜市にある千賀居隧道はわずか17mである。そんな状況下でのトンネル工事は大きな苦労もあったが、その分結ばれた町どうしの往来を活発にし、そこで暮らす人々を大いに喜ばせた。 三瓶隧道もまた例外ではなく、三瓶尋常高等小学校では「三瓶トンネル開通の歌」なるものがつくられ、トンネル建設によって活気づくまちの様子が歌われている。

今や東はトリツキ(地名)に

伊予第一トンネルを

穿ちて宇和の天産を

入るる港も賑わばや

9番までつづくこの歌は、銀行や登記所や郵便局ができたこと、電灯の明るさや電話の敷設が目前であることなど、トンネルの建設とともに次第に近代化してゆく三瓶の様子とそこでくらす人々の高揚感をいまに伝える。

峠道をバイパスするトンネルは人や物はもちろん、まちへと近代化を運んでくる<循環器>だったのだ。(白柳)

 

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参考文献

えひめ地域政策研究センター:愛媛温故紀行 明治・大正・昭和の建物,アトラス出版,2003

種別 トンネル
所在地 西予市宇和町
構造形式 石・煉瓦造
規模 長さ316m・幅員4.6m・高さ3.2m
竣工 大正6(1917)年12月16日
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