ドボ鉄024スイッチバックの駅

絵はがき:中央本線・勝沼ぶどう郷駅(山梨県甲州市)


 1903(明治36)年、延長4,656mの笹子トンネルの完成によって中央本線はようやく甲府盆地へと達し、同年6月11日には、鉄道作業局長官・古市公威を迎えて甲府駅頭で初鹿野(現・甲斐大和)~甲府間の開業式典が挙行された。その10年後の1913(大正2)年4月1日、列車交換のための信号所として勝沼に大日影信号所が新設され、1週間後の同月8日から旅客と貨物の営業を開始して勝沼駅が誕生した。
 この区間は、25パーミルの急勾配区間に駅を設置しなければならなかったため、スイッチバック式で駅のプラットホームを設け、列車が勾配で停車することを避けた。大正時代に撮影されたと思われる「中央線勝沼停車場」と題した絵葉書には、甲府方から東京方を望んだ駅構内をとらえており、本線の勾配区間を列車が通過中である。右隅の勾配標には、水平を示す「L」(Level)の文字があり、右手に延びる線路の終端には、行き止まりの勝沼駅がかすかに見える。勝沼駅の開設は地元の請願により行われ、この地で生産が開始されたワインの出荷に、大きく貢献することとなった。
 勝沼駅はその後、1968(昭和43)年に現在の地に移転し、同時にスイッチバックは解消された。かつて駅構内であった場所は公園として利用され、中央線ゆかりのEF64形電気機関車が保存されているほか、煉瓦造のアーチ橋が明治時代から続く中央本線の歴史を物語っている。勝沼駅は、1993(平成5)年に現在の勝沼ぶどう郷駅と名を改め、ぶどう狩りの季節ともなると多くの観光客で賑わっている。 
(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2009年1月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

鉄道の勾配は、どうして角度ではなくて、パーミルを使っているんですか?

A

 旧法になりますが、国鉄時代に使われていた「普通鉄道構造規則」では勾配について千分率で数値を表していました。これによって、鉄道で使われる勾配は、千分率を原則としていました。角度で示すと一般的な25‰の勾配は1.4度、碓氷峠で使われていた67‰の急勾配でも3.8度というごく小さな数字になってしまうので、急な坂というイメージがいまひとつわきません。千分率で表すことによって、どれだけ走ったら何メートルを登れるか(下れるか)という判断を簡単に行うことができます。角度で表してしまうと、三角関数を使わなければならないので、現場でのとっさの判断が難しくなってしまいます。ちなみに、道路は鉄道よりも勾配が急なので、道路標識なども百分率(パーセント)を使っています。(小野田滋)


”中央本線・勝沼ぶどう郷駅”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

勝沼といえばワインですね。

師匠

ほう。お前さんはワインも飲むのかね。

小鉄

こう見えても、ワインにはうるさいですよ。

師匠

声がうるさいだけだろ。

小鉄

そんなことありませんよ。

師匠

勝沼では、廃止された鉄道トンネルをワインセラーに使っているぞ。

小鉄

ええっ。それは初耳ですね。

師匠

中央本線で使っていた深沢トンネルという明治時代のトンネルが廃線になったんで、地元の甲州市がワインセラー「トンネルワインカーヴ」として再利用している。

小鉄

廃線跡は、そんな使い方もあるんですね。

師匠

長いトンネルの内部は、年間を通じて温度も湿度もほぼ一定だからワインの貯蔵に適してるんだ。

小鉄

なるほど。

師匠

焼酎の貯蔵やキノコ栽培に利用しているトンネルもある。

小鉄

うちのアパートも、年間を通じて一定の温度になりませんかね。

師匠

廃線跡のトンネルの中にアパートを建てればよかったかな。

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