ドボ鉄147上越南線の建設

絵はがき:上越線・第3利根川橋梁(群馬県渋川市)


 群馬県の高崎と新潟県の宮内を結ぶ上越線は、それまで信越本線で上田、長野、直江津、柏崎を経由していた新潟への鉄路を短絡し、太平洋側と日本海側を結ぶ新たなルートを構成した。上越線の建設は、最長の清水トンネル(延長9,702m)の中央を境として高崎側を上越南線、宮内側を上越北線として南北から建設を進めた。
 「第三利根川橋梁架構工事」と書かれた絵葉書は、上越南線の工事にあたった鉄道省東京建設事務所が発行した「上越南線渋川沼田町間開通記念絵葉書」のうちの1枚で、津久田~岩本間で利根川を跨ぐ第3利根川橋梁の架設工事の様子を紹介している。写真では、支間約154フィート(約47m)の上路プラットトラスの第1径間の架設がほぼ完了し、第2径間の足場の組立てにとりかかっている。
 足場には多くの作業員の姿が見られるが、服装はこの時代の作業服の定番であった印半纏ではなく、全員が制服姿であることに気がつく。これは、第3利根川橋梁の架設作業が、陸軍鉄道第一連隊により行われたためで、将卒約150名からなる架橋隊が作業にあたった。当時の記録によれば、工事中に発生した関東大震災により連隊が救援活動を行うこととなったため、工程に影響が生じたとされる。
また流心部のトラスは、エレクショントラス工法によって架設されたが、絵葉書の写真でも本設のトラスを支える仮設のトラス(エレクショントラスまたは架設トラス)を確認することができる。
 絵葉書の左下隅には「開通・渋川沼田町間・大正十三年三月三十一日」とあり、第3利根川橋梁を含む渋川~沼田間が1924(大正13)年3月31日に開通したことを示している。当時の記録では、沼田駅の駅前広場に大天幕を張り、13時より開通祝賀会が挙行された。上越南線が利根川をさらにさかのぼって北上し、上越国境の清水トンネルが完成して南線と北線が接続するのは、7年半後の1931(昭和6)年9月1日のことであった。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2023年4月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

エレクショントラス工法とはどのような施工法ですか?

A

エレクショントラスと呼ばれる仮設のトラスを組み立てて、これを足場としてその上で橋梁を組み立てる施工法で、エレクショントラスは組み立てと撤去を容易にするため、部材の接合にピン結合を用い、斜材にターンバックルを用います。河床に足場を組まずに架設工事を行うことができますが、エレクショントラスの製作と架設に多大な経費を要し、水位の関係で使用条件も限られるという欠点があります。なお、本設橋梁の部材の組み立ては、一般にゴライアスクレーンと呼ばれる、移動式の門型クレーンをエレクショントラスの上に組み立てて使用します。エレクショントラスは架設時に仮設されるのみで、橋梁が完成すると撤去されます。(小野田滋)


”上越線・第3利根川橋梁(群馬県渋川市)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

師匠。「仮設」と「架設」は何がちがうんですか?

師匠

どちらも読みは「かせつ」だからややこしいが、意味は全く違うぞ。

小鉄


師匠

「仮設」は「仮(かり)」だから仮に使うための施設だ。

小鉄

「仮住まい」とか「仮の姿」とかと同じ意味ってことですね。

師匠

「仮設」の反対が「本設」で、本設の構造物を施工するために、一時的に使う設備が「仮設」ということになる。

小鉄

工事現場の足場やコンクリートの型枠なんかも「仮設」になりますね。

師匠

それに対して、「架設」の「架」は何かを「架ける」という意味で用いる。

小鉄

「橋を架設する」は、橋を架けるという意味ですね。

師匠

橋の場合は「架橋」とも書かれるな。

小鉄

ってことは、「エレクショントラス」は、「橋を“架設”するための“仮設”のトラス」ってことになるわけですね。

師匠

「施工」と「施行」、「工程」と「行程」なども間違えやすいな。

小鉄

「支承」と「師匠」もありますよ。

師匠

……。

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