ドボ鉄167民衆駅の普及

絵はがき:広島駅(広島県広島市)


 「民衆駅」という言葉は、もはや鉄道用語としても死語になってしまったが、1949(昭和24)年に日本国有鉄道が成立して間もない頃に創作された言葉である。民衆駅は、戦災によって荒廃した駅を地元有力者などの支援を受けて国鉄と共同出資し、駅舎を商業施設として利用するとともに、建物の整備を行うことを目的として各地に誕生した。駅と商業施設を併設することは、すでに戦前の私鉄で試みられ、ターミナルデパートとして大都市の私鉄ターミナル駅に設けられた。最初に「民衆駅」として建設されたのは1950(昭和25)年の豊橋駅で、以後、池袋駅西口(1950)、秋葉原駅(1951)、尾張一宮駅(1952)、門司駅(1952)と続いた。
 広島駅は、1922(大正11)年に完成した鉄筋コンクリート造の駅舎が1945(昭和20)年の原爆によって被爆し、何とか耐えたものの屋根は焼け落ち、躯体には亀裂が生じるなど無惨な姿となった。ただちに補強工事や、木造による出札広間の拡張などの応急処置が行われたものの脆弱な状態が続き、1960(昭和35)年頃からこれを民衆駅として改築する機運が高まった。
1963(昭和38)年には事業主体となる株式会社として広島ステーションビルが設立され、1964(昭和39)年に着工した。新しい駅舎は、鉄骨鉄筋コンクリート構造、地上7階、地下1階という規模で、駅施設のほかに、店舗、食堂街、映画館、ホテル、屋上遊園地、浴場、駐車場などを備えた。工事は、日本国有鉄道下関工事局の監理、安井建築設計事務所の設計、大林組+藤田組の施工により1965(昭和40)年11月に完成した。
 今回紹介する絵葉書には、完成したばかりの真新しい広島駅が写り、黒いルーバと白い壁面とのコントラストが印象的である。国鉄の民衆駅で培(つちか)われたノウハウは、現在のJRグループにおける駅ビル事業に継承された。
 その後の広島駅は、1975(昭和50)年に山陽新幹線が開業し、2012(平成24)年から2017(平成19)年にかけてペデストリアンデッキの新設や自由通路、橋上駅舎化などの改良工事が行われた。また、1965(昭和40)年に民衆駅として完成した駅ビルも半世紀以上を経て改築されるこことなり、2025(令和7)年3月には新しい駅ビルとして地上9階(ホテル棟は20階)、地下1階の「minamoa(ミナモア)」が開業した。新しい駅ビルの2階には、広島電鉄市内線の路面電車も乗り入れを開始し、交通の結節点としてより新しい駅ビルの姿を示した。(小野田滋)(書き下ろし)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

鉄筋コンクリート構造の駅舎が登場するのは、関東大震災がきっかけですか?

A

広島駅の鉄筋コンクリート駅舎は、関東大震災が発生する1年前の1922(大正11)年に完成していますから、関東大震災より前になります。鉄道省では、1907(明治40)年に完成した山陰本線の島田川暗渠というアーチ橋で最初に鉄筋コンクリート構造を用い、鉄道建築でも1911(明治44)年に国府津機関庫が鉄筋コンクリート構造で完成するなど、関東大都震災の発生以前から鉄筋コンクリート構造の実用化に取り組んでいました。広島駅に続いて新宿駅や岡山駅などが鉄筋コンクリート構造で完成しましたが、新宿駅は建設中に関東大震災に遭遇しました。地震によって壁面に大きなひび割れが生じるなどの被害を受けましたが倒壊には至らず、補修ののちに1925(大正14)年に完成しました。鉄筋コンクリート構造は、耐震性、耐火性、耐久性に優れた構造として発展しますが、木造建築のように増改築が容易ではなく、当時は貴重な資材であった鋼材を用いたため、昭和戦前時代までは大規模な駅や庁舎建築に限られました。(小野田滋)


”広島駅(広島県広島市)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

広島市の路面電車は、市電とは違うんですか?

師匠

大都市の路面電車がほとんど都営や市営だったから、都電・市電のことを路面電車と思っている人も多いが、広島市や豊橋市、長崎市など、いくつかの都市では民間の鉄道事業者が経営している。だから、厳密には市電ではない。

小鉄

つまり、市電は市営電車の略ってことですか?

師匠

狭い意味ではそうなるが、「市民のための電車」「市街地を走る電車」という意味も込められているから、そのあたりは文脈に応じて適当に使い分けられている。

小鉄

路面電車が駅ビルの2階に乗り入れるのは、珍しいんですか?

師匠

1998(平成10)年に北九州モノレールが小倉駅ビルの2階に乗り入れを開始したが、路面電車としては全国で初めてだ。

小鉄

乗り換えが便利になりますね。

師匠

広島駅も小倉駅も橋上駅だから、2階で乗り換えできるメリットは大きい。

小鉄

路面電車は、改札口を通らずに気軽に乗れるのが特徴だから、相性もいいですね。

師匠

路面電車とのアクセス向上は、富山駅や岡山駅などでも取り組まれたぞ。

小鉄

最近の路面電車は、話題が豊富ですね。

師匠

ひと頃は、「時代遅れの交通機関」として扱われていたが、いろいろな取り組みでイメージもだいぶ変わってきたな。

小鉄

師匠も「時代遅れ」になりそうだから、早めにイメチェンした方がいいですよ。

師匠

💢

中国・四国の開発展望(昭和39年時点)中国・四国の主要工事(昭和39年時点)
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