ドボ鉄171跳開橋の普及

絵はがき:堀川口可動橋(旧名古屋港線名古屋港~堀川口/名古屋市港区)


 舟運と陸上交通の共存を図るために、可動橋が各地に登場した。鉄道橋では、船舶の航行が頻繁な運河や港湾地区で多用され、可動方式によって旋開式(旋回式とも)、跳開式、昇開式に区別された。「第四回当所設計及架設ニ係ル名古屋市西築港鉄道跳上橋全景」と題した絵葉書は、山本卯太郎の率いる山本工務所が宣伝用に作成した1枚で、跳開橋として設計された堀川口可動橋(名称は日本国有鉄道名古屋鉄道管理局施設部保線課調整の『線路一覧略図』(1967)に基づくが「1・2号地間運河可動橋」「名古屋港跳上橋」などとも称される)の全景がおさめられている。
 山本卯太郎(1891~1934)は、1914(大正3)年に名古屋高等工業学校(現在の名古屋工業大学)土木科を卒業してアメリカへ渡り、アメリカン・ブリッジ社で可動橋の設計や製作に携わった。帰国後に山本工務所を設立して可動橋に関する特許を取得し、大阪、名古屋、東京に営業所を構えてその普及に貢献したが、1934(昭和9)年に42歳の働き盛りで早逝した。
 堀川口可動橋は、愛知県名古屋港務所の事業による名古屋臨港線(のち日本国有鉄道名古屋港線・名古屋~堀川口間)の橋梁として1926(大正15)年10月に着工して、1927(昭和2)年6月に完成した。堀川口可動橋を含む名古屋港線の名古屋港~堀川口間は1980(昭和55)年に廃止されたが、その後も跳上げた状態で現地に保存され、わが国における現存最古の跳開橋として1999(平成11)年には「名古屋港跳上橋(旧1・2号地間運河可動橋)」として国の登録有形文化財に登録された。跳開桁の中央には、山本が手がけた他の跳開橋と同様に、「山本工務所」と書かれた大きな銘板が取り付けられ、その名を今に伝えている。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2015年1月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

参考写真で紹介されている「奥田助七郎胸像」と「人造石護岸」は堀川口可動橋と何か関係があるんですか?

A

直接関係はありませんが、名古屋港の整備に貢献した技術者と、名古屋港で使われた人造石護岸を野外展示していて、どちらも堀川口可動橋近くの「ガーデン埠頭交差点」付近にあります。奥田助七郎(1873~1954)は、京都帝国大学を卒業したのち愛知県土木技師として名古屋港の発展に貢献した技術者で、没後、1957(昭和32)年の名古屋港50周年事業で胸像を奉置しました。隣には、「この人を見よ」と書かれた副碑があります。人造石護岸は、1903(明治36)年の名古屋港旧2号地(現在のガーデン埠頭)南側護岸で用いられたものが改良工事の際に出土し、その一部をモニュメントとして保存したものです。人造石は、愛知県碧海郡出身の服部長七(1840~1919)が考案したコンクリートの代用材で、左官の「たたき」の技術を応用して石灰とマサ土(花崗岩が風化した土)に水を混ぜて造られる人口材料です。東海地方を中心として各地で用いられ、発明者の名前にちなんで「長七たたき」とも称されています。(小野田滋)


”堀川口可動橋(旧名古屋港線名古屋港~堀川口/名古屋市港区)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

今回も山本卯太郎の可動橋ですね。

師匠

前回も紹介したが、山本卯太郎は個人で事務所を構えて独立していたから、絵葉書を使ってあちこちに実績を宣伝していたようだ。

小鉄

それが絵葉書として残っているってことですね。

師匠

可動橋は文字だけでは説明が難しいが、写真で見るだけでわかり易い構造をしていたから、絵葉書で宣伝する効果は大きかったと思うぞ。

小鉄

たしかに、橋に詳しくない人でも、写真を見ればどんな姿なのかがよくわかりますね。

師匠

百聞は一見にしかずだ。

小鉄

跳開橋って、どこかでも文化財になってませんでしたか?

師匠

ドボ鉄第46回で紹介した三重県四日市市の末広橋梁だな。

小鉄

思い出しました。たしか末広橋梁も山本卯太郎の設計でしたよね。

師匠

鉄道の跳開橋はかつてあちこちにあったが、現存するのは末広橋梁と今回の名古屋港の2箇所だけになってしまった。

小鉄

でも末広橋梁は国の重要文化財で、名古屋港は国の登録有形文化財だから、卯太郎さんは良いものを遺してくれましたね。

師匠

同じ跳開橋だが、開閉する仕組みが異なっているから、技術的にも価値があるな。

小鉄

どこが違ってましたっけ?

師匠

末広橋梁はリンク式を用いていて、主塔があって吊橋のようにワイヤーとリンク機構で可動桁を持ち上げているから、外観だけで見分けることができるぞ。

小鉄

なるほど。

師匠

間違い探しの要領で写真を見比べると、違いがわかるようになる。

小鉄

「違いがわかるゴールドブレンド」ですね。

師匠

そのCMを覚えているってことは、さては昭和の生まれだな。

小鉄

ダバダ~、ダバダ~……♪

諸元概要古写真
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