炭坑節で知られる三井三池炭坑は、県境をはさんで福岡県大牟田市と熊本県荒尾市にまたがり、1997(平成9)年に閉山されるまで、日本の石炭産業を支え続けてきた。石炭を輸送するために専用鉄道が敷設され、石炭車と呼ばれる専用の貨車を用いて運搬した。
専用鉄道は、三井鉱山によって1891(明治24)年に開業し、明治時代末~大正時代にかけてほぼ全線が電化された。「三井三池萬田坑」と題した絵葉書には、万田坑の竪坑設備を背景として手前に貨物ヤードが広がり、蒸気機関車や石炭車の姿を確認することができる。専用鉄道は鹿児島本線を跨いで、大牟田市の外周を迂回して万田坑、宮原坑、三池港などの主要施設を結んだ。専用鉄道であったが、1964(昭和39)年~1973(昭和48)年までは、地方鉄道の免許を受けて一般の旅客営業も行われ、その後も従業員とその家族のみを輸送した。しかし、1984(昭和59)年には従業員輸送が廃止され、貨物輸送も1997(平成9)年の閉山とともに一部の支線を残して廃止された。
廃止とともに、レールや架線は撤去されたが、廃線跡や橋梁はほぼそのままの姿で残り、2013(平成25)年にはその歴史的価値が認められて景観法に基づく景観形成重点地区に指定された。さらに、2015(平成27)年には、軍艦島や八幡製鐵所などともに三井三池炭鉱が「明治日本の産業革命遺産、製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業」として世界遺産リストに登録され、専用鉄道敷跡(約5.5km)もその構成資産に含まれた。
世界遺産の登録とともに現地には多くの観光客が訪れるようになり、地元では専用鉄道の跡地を、遺産群をめぐるための遊歩道として整備・活用する計画が進められている。(小野田滋) (「日本鉄道施設協会誌」2016年09月号掲載)
Q&A
竪坑(たてこう)って何ですか?
炭坑や鉱山、トンネルなどを掘る時に、設けられる竪穴のことです。「立坑」と書く場合もあります。炭坑や鉱山では、地下深くの炭層や鉱脈に達するまで竪坑を掘って、そこから水平方向に坑道をのばして石炭や鉱石を掘り、竪坑によって坑外に搬出します。絵はがきにも鉄骨の櫓(やぐら)が写っていますが、ちょうどこの真下に竪坑があって、巻揚機で石炭を坑外に運び出します。
トンネル工事の竪坑は、特に延長が長いトンネルやシールドトンネル、水底トンネルの工事で用いられ、竪坑から垂直にトンネルの通過位置まで掘下げて、ここから水平方向にトンネルを掘ります。こうすることによって、先回りしてトンネルを掘ることができ、長いトンネルでは、両側からトンネルを掘るよりも工事期間が短縮されます。また、シールドトンネルでは、シールド掘削機を地上から掘削現場に降ろし、最後に到達点で解体して引揚げるために、竪坑を設けます。(小野田滋)
”三井三池炭鉱・万田坑”番外編
師匠。今回の絵葉書は、高い煙突から煙が出ていて、炭坑節が聞こえてきそうですね。
盆踊りの定番だな。だが、炭坑節は三池炭坑が発祥の地ではないんだ。
ええっ!? 歌詞では三池炭坑に月が出ることになってますよ。
炭坑節は、同じ九州の田川市の炭坑が発祥と言われていて、発祥地を示す記念碑もある。
じゃ、三池炭坑ってのは間違いですか?
いや、間違とは言い切れない。田川からあちこちに炭坑節が伝わるなかで、それぞれの地方の歌詞で歌い継がれてきたということだ。
なるほど。
結果的に「三池炭坑」という歌詞が、全国的に有名になってしまったんだ。
やっぱり、九州を代表する炭坑ですからね。
今や世界遺産だからな。
さ~ぞや、お月さんも嬉し~かろ♪