ドボ鉄016球磨川をわたる

絵はがき:肥薩線・第2球磨川橋梁(熊本県球磨郡球磨村)


 人吉盆地の東端に位置する熊本県球磨郡水上村を源流として、八代から不知火海へとそそぐ球磨川は、日本三大急流のひとつに数えられ、急流下りの名所として知られている。この球磨川沿いに路線を求めた肥薩線は、八代~人吉間で二度球磨川を渡る。このため、川の流れが車窓の左右で入れ替わり、気がつくといつの間にか景色が逆転していたりする。
 今回紹介する絵葉書は、この球磨川に架かる橋梁のうち、那良口~渡間の第2球磨川橋梁を撮影したもので、手前に人物や小舟を配置することによって、河床から見上げたトラス橋の巨大さが強調されている。また、トラス橋を支える切石積みの橋脚も、流れに負けず堂々とそそり立ち、安定感のある構図となっている。
 第2球磨川橋梁は、アメリカの橋梁技術者、セオドア・クーパーとチャールズ・コンラッド・シュナイダーに設計が委嘱され、1906(明治39)年、アメリカンブリッジ社エッジモーア工場で製造された。支間205フィート(約63m)の単線プラットトラスは、アメリカ流のアイバーによるピン結合を用いた。また、川を斜めに横断するために線路方向に対して斜角があり、片方の端柱が斜めに、もう片方の端柱が垂直に立っているのが特徴で、切り詰めた形からトランケートトラスとも呼ばれている。
 同形式のトラスは、5橋7連が輸入され、中央本線や山陰本線にも架けられたが、現存するのはこの第2球磨川橋梁と、下流(鎌瀬~瀬戸石間)にある第1球磨川橋梁の2橋4連のみとなってしまった。(小野田滋) (「日本鉄道施設協会誌」2007年4月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

クーパーとシュナイダーって、どんな人ですか?

A

 セオドア・クーパー(Theodore Cooper:1839~1919)はアメリカの土木技術者で、 トロイ&グリーンフィールド鉄道でフーザックトンネル(延長7645m)の建設などにあたりました。海軍の技術者となったのち、橋梁技術者となり、設計荷重の体系化に功績を残しました。1907(明治40)年、建設中に落橋して、75名の作業員が死亡したカナダのケベック橋の設計担当者でもあります。
 チャールズ・コンラッド・シュナイダー(Charles Conrad Schneider:1843~1916)はドイツ人で、アメリカに移住して橋梁技術者となり、1883(明治16)年に完成したミシガン・セントラル鉄道のナイアガラ・カンチレバー橋などを設計しました。また、ケベック橋の落橋事故の調査にもあたりました。
 日本の鉄道局は、1898年(明治31)年に、橋梁の標準設計をクーパーとシュナイダーに委嘱し、それまでのイギリス流の技術に基づく橋梁設計から、アメリカ流の設計へと大転換しました。こうして、日本の鉄道橋梁の技術は経験則を重視したイギリス流の橋梁から、合理性を重視したアメリカ流の橋梁へと移行したのです.(小野田滋)


”肥薩線・第2球磨川橋梁”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

師匠、「川の流れが車窓の左右で入れ替わる」ってどういう意味ですか?

師匠

ああ、川側の景色を楽しみたいと思って川側の席に座ったら、いつの間にか川が反対の車窓に移ってるってことだ。

小鉄

ってことは、列車の進行方向が変わるってことですか?

師匠

いや列車の進行方向を変えただけでは、景色は入れ替わらんよ。

小鉄

イリュージョンですね。

師匠

簡単なことだ。川を橋で渡って左岸から右岸、右岸から左岸へ移れば、その都度、景色が逆転する。

小鉄

なるほど。それで川の流れが左右で逆転するんですね。

師匠

これから列車に乗る時は、左右のどちらの側の席が景色がよいか、よく考えてから乗るといいぞ。

小鉄

たしかに、新幹線でも、自分の席から富士山が見えると、その日は1日ラッキーな気分になれますからね。

師匠

海岸沿いでも、海の景色が見える海側を選ぶのがベストだが、山好きは山側の座席ということになるな。

小鉄

今まで、車窓の景色のことを考えずに席を選んでいましたけど、師匠のおかげで鉄道に乗る時の楽しみ方がひとつ増えました。

絵はがき
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