肥薩線の吉松と、日豊本線の都城を結ぶ延長61.6kmの吉都線は、日豊本線の宮崎～都城間の50.0kmと併せて、「宮崎線」の建設線名称で建設が進められた路線で、1910（明治43）年４月に着工した。路線は、吉松から霧島山のふもとにそって東進し、加久藤（現在のえびの）、小林、都城を経て宮崎へと達した。吉松経由の迂回路線ではあったが、宮崎線の開業によって九州島内のすべての県庁所在地に鉄道が通じた。
宮崎線は、全線を14工区に分割し、1912（大正元）年に吉松～小林間が開業したのを皮切りに順次東進し、1916（大正５）年10月25日に青井岳～清武間が開業して吉松～宮崎間が全通した。このうち第10工区は青井岳の峻険な地形を克服するために、山之口～青井岳間に宮崎線で最長となる青井岳トンネル（延長1528.87ｍ）を建設したが、２カ所に深さ約15ｍの立坑を設けて掘削ずりの運搬に使用した。また、田野～青井岳間の境川橋梁は、この路線で唯一のトラス橋として完成した。
「宮崎線青井岳鉄橋九洲（州）第一」と題した絵葉書には、支間46.94ｍの上路プラットトラス×２連を用いた境川橋梁の姿がおさめられた。石積みによる下部構造は、基礎の掘削時に湧水の処理に難渋したと伝えられる。宮崎線第10工区は、1913（大正２）年１月11日に着工し、1915（大正４）年10月31日に竣工した。
宮崎線のうち、宮崎～都城間は、1923（大正12）年12月に小倉方面から南進した豊州線と接続し、日豊本線となった。また、1932（昭和７）年12月に霧島神宮、国分を経由して隼人へ至る日豊本線の現在のルートが完成したため、吉松～都城間は吉都線に改称し、現在に至っている。（小野田滋）（「日本鉄道施設協会誌」2015年5月号掲載）
Q&A
「掘削ずり」って何のことですか？
「ずり」はトンネルを掘った時に発生する土砂や岩石のことで、漢字では「碿」とひと文字で表して、文字通り石屑（いしくず）を意味します。トンネル工事で発生したずりは、蓄電池／内燃機関車とトロッコ、ダンプトラックなどを利用して坑外に運び出し、さらに土捨場などへ運搬されます。立坑の場合は、リフトを使って坑外に運び出します。（小野田滋）
”日豊本線・田野～青井岳”番外編
よく、橋で「じょうろ」とか「かろ」とか聞きますけど、どんな意味なんですか？
漢字で書くとわかりやすいが、「じょうろ」は「上路」、「かろ」は「下路」と書く。
漢字で書いても、よくわかりませんが……。
「路」は橋を通る「道路」や「線路」を表している。道路や線路が橋の上を走っているのを「上路」、下に走っているのを「下路」と呼んでいる。
なるほど。境川橋梁は、トラスの上を列車が走っているから「上路トラス」なんですね。
やっとわかったか。
ってことは、下路トラスは橋の下を線路がくぐっているってことですか？
いや、くぐっているわけではない。線路が橋のいちばん下の部材で支えられているということだ。
？？
この絵葉書シリーズでも紹介した紀ノ川橋梁（第７回）、上淀川橋梁（第８回）、天竜川橋梁（第11回）、最上川橋梁（第14回）、第２球磨川橋梁（第16回）、新神通川橋梁（第20回）などが下路トラスだ。言葉で説明すると難しいが、写真を見ればすぐにわかるだろう。
なんだ。普通のトラス橋じゃないですか。
鉄道のトラス橋はほとんどが「下路トラス」で設計されているから、普通と言えば普通かも知れんな。
何で下路トラスが多いんですか？
上路トラスを使うと、トラスの高さよりも上に線路を通すことになるから、どうしても橋の前後に勾配が必要になって、高い盛土や高架橋を建設しなければならない。
建設費がかかりますし、治水上もよくないですね。
その通りだ。それと、橋の下を船や道路がくぐる場合は、トラス橋の本体が邪魔になってしまう。
だから境川橋梁のような、谷の深い場所で使うんですね。
そうだ。上路トラス橋が架かっている所は、だいたい深い谷地形で、谷の上を線路が走っているような場所だ。
列車の写真は、線路の上に何もない上路の橋の方がきれいに撮れますよね。
撮り鉄の基本だな。