国有鉄道では、1919(大正8)年に鉄道電化の方針が閣議決定されたことを受けて、1921(大正10)年に鉄道省本省に電気局を設置し、その本格的な推進体制を整えた。
国有鉄道の路線は、すでに一部が電化され、自営の火力発電所による電力供給も行われていたが、電化の推進にあたっては、自営電力によることを基本方針としていた。この方針に従って、赤羽と川崎に火力発電所が設置され、新潟県下の信濃川に水力発電所が設けられることとなった。そして、信濃川の電力開発を行う組織として、電気局の創設と同時に信濃川電気事務所(のちの国鉄信濃川工事局)が設置された。
発電所の建設は関東大震災などの影響で遅れたが、1931(昭和6)年に水路トンネル、圧力トンネル、発電所などの工事を本格的に開始し、1939(昭和14)年に千手発電所から清水峠を送電線で越えて、首都圏に向けて送電を開始した。
1940(昭和15)年からはさらに第2期工事が開始され、浅河原調整池を含む増強工事が1944(昭和19)年(調整池は翌年)に完成した。しかし、ほぼ同時期に着手された第3期工事は、戦争のために中断し、戦後に工事を再開して1951(昭和26)年より下流に設けられた小千谷発電所からも送電を開始した。
信濃川発電所は、その後も第4期工事(1957~1969)、第5期工事(1985~1990)と増強を重ね、今も首都圏の鉄道輸送を支え続けている。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2013年10月号掲載)
Q&A
鉄道を電化すると、どんな利点があるんですか?
昔使われていた蒸気機関車は、煤煙によって長いトンネルでは機関士が窒息したり、窓を開けると煤(すす)が室内に入って快適な旅が楽しめないなど、いろいろな弊害がありました。電化によって煙も出なくなるので「無煙化」とも呼ばれましたが、電化をせずにディーゼルカー(気動車)やディーゼル機関車を使用した場合でも「無煙化」と称します。電気動力の車両(「電気車」と総称し、電気機関車、電車などの種類がある)は、エネルギーの使用効率に優れているため環境にやさしく、寿命も長くて維持費や修繕費なども安く済みます。特に電車は加減速性能に優れ、終着駅での方向転換も容易なので、都市近郊では効率の良い鉄道輸送を実現できます。ただし、地上設備(変電所や架線)に多額の投資を必要とし、架線が無い区間では運転できないという欠点もあります。また、昭和戦前期には、電力施設が破壊されると停電となり、列車の運行ができなくなるという理由で、軍部が鉄道電化に反対していました。(小野田滋)
”信濃川発電所”番外編
鉄道が発電所を持っているなんて、すごいですね。
昔はそうでもないぞ。
どういうことですか?
昔は電力会社も規模が小さくて、中小の電力会社が限られた地域だけに電気を供給していた。
いつ頃の話ですか?
だいたい大正時代から昭和の初めくらいの話だ。
ずいぶん昔ですね。
その頃に電車を走らせていた会社のいくつかは、自前の発電所を持っていた。
火力ですか、水力ですか?
ほとんどが火力発電所だったが、信濃川は水力発電所だった。
その頃、新潟には電車が走っていたんですか?
上越線の清水トンネルには電気機関車が走っていたが、それよりも東京の電車を走らせるために造ったんだ。
ええっ!はるばる新潟から山を越えて電気を送ってたんですか!?
それだけ自営電力にするメリットがあったということだ。
うちのアパートもソーラーパネルを取付けて、自営電力にすれば電気代はタダになりますよ。
そんな心配より、たまってる家賃を早く払っとくれ。