四国インフラ022 木頭の林業土木遺産と吊橋群

那賀町で営まれてきた林業と<代謝機能>


那賀町は、那賀川流域を囲む鷲敷町・相生町・上那賀町・木沢村・木頭村が合併し、平成17(2005) 年に誕生した町である。町域の9割以上が森林で、温暖で雨の多い気候のため、昔から林業が盛んであった。なかでも上流部に位置する上那賀、木沢、木頭は「木頭地方」と呼ばれ、木材の一大産地として、木頭地域の人々の暮らしを支えてきた。山に入っていくために深い谷を渡っていた吊橋が、今も数多く残っている。細く茶色く錆びたワイヤーで吊られた吊橋は、木やエキスパンドルメタル等の床版が多く、足下に広がる深く青い谷を見下ろすことができる。老朽化により通行できない吊橋もあるが、現在でも地域住民が利用している吊橋も多い。

木頭地域の林業では、林内で乾燥させ長さを揃えた木材を支流まで人力で陸送し、そこからは川を利用して運んでいた。現在の長安口ダム下の谷口にあった土場まで丸太のまま流し、そこで筏に組んで下流まで運んていた。現在では陸路で輸送しているが、長安口ダムが建設される直前の昭和28(1953)年までは、この方法によって材木を運搬していた。「出原谷の鉄砲堰」は、水の少ない支流で材木を流すためにつくられた。沢の両岸に切石のコンクリート練り積みの「アテ堰」をつくり、中央を可動式の堰でふさぐ。この堰を組むのは村の男衆の仕事で、漏水を防ぐために止め木の隙間に詰める苔を山から採ってくるのは女たちの仕事であったという。水が引いた後にはアユやアマゴが岸にたくさん残され、それを収穫するのは子供たちであったらしい。この「出原谷の鉄砲堰」は、選奨土木遺産に選定されている。

この他にも、山中を人力で運ぶために作られた手掘りのトンネルと木馬道等、当時の林業の様子を知ることができる場所がある。徳島大学と那賀町住民でつくる地域再生塾丹生谷応援団が調査し、『那賀町の吊り橋 50 選』という案内図を発行している。吊橋だけではなく、出原谷の鉄砲堰や手掘りのトンネル等、木頭地方の林業土木遺産も数多く載っている。案内図とともに木頭地方の林業土木遺産巡りを楽しんで欲しいが、老朽化した吊橋や手入れの入らなくなった山もあるので、事故や遭難には気をつけて欲しい。(尾野)

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参考文献

真田純子:木頭地方の林業土木遺産群,土木学会 四国支部「土木紀行」 No.43,(徳島県),2010.07.
真田純子:見どころ土木遺産 第74回 木頭出原谷の鉄砲堰 ―賑わう山村に思いを馳せて―,土木学会誌 2010年9月号 Vol.95,pp.32-33,2010.09.

種別 橋梁 堰 河川
所在地 徳島県那賀郡那賀町
構造形式 木頭出原谷の鉄砲堰:切石布積み コンクリートによる練積み
規模 木頭出原谷の鉄砲堰:高さ6.9m 奥行12.6m アテ堰部(吐出口)4.2m
竣工年 木頭出原谷の鉄砲堰:昭和15-16(1940-1941)年頃
備考 木頭出原谷の鉄砲堰:平成21(2009)年度 選奨土木遺産
土木学会選奨土木遺産
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