四国インフラ087 唐櫃岡清水共同水場

憩い潤す島の清水


豊島は、面積14.5k㎡、人口約1000人の島で、小豆島にある香川県小豆郡土庄町の一部だ。高松港から小豆島の土庄港で船を乗り継ぎ到着する豊島の唐櫃港(からとこう)から山に向かって道を登ると、海を見下ろす棚田と豊島美術館があり、更に登っていくと唐櫃岡(からとおか)の集落に辿り着く。この集落の更に上、荒神社の境内には石造りの水場がある。ここが唐櫃岡清水共同水場だ。

島において水は貴重な資源だ。すぐ隣の小豆島では上水道・洪水調節のために内海ダムがつくられた。一方、豊島の唐櫃地区では、1年通して壇山からの水が湧き出ている。この清水を生活に利用するためにつくられた唐櫃岡清水共同水場は、上部の貯水槽から3連小水槽、大水槽に流し、用途にあわせて水槽を使い分けてる。余水は脇の水路から下水路へと流れていく。水温は年間通して15度前後で、夏は冷たく、冬は温かく感じる。唐櫃岡の人々にとって、この清水は貴重な水源で、水場は人々の憩いの場でもあったらしい。きっと、家々の間を縫うように、うねるようにつくられた石積の見える狭い道を抜け、声をかけあいながら、水場へと向かったのだろう。

水場から流れてきた清水は、集落下のため池に一度溜められ、更に棚田へと流れていく。この棚田は、第一次産業の衰退とともにいつしか耕作放棄地となった。2010年に開館した豊島美術館の建設に際し、「周辺の自然環境とともにあってこその美術館だから、ぜひ棚田を再生して欲しい」という公益財団法人福武財団の福武總一郎氏の声を受け、住民説明会を何度も重ねた結果、棚田再生プロジェクトが始まった、と地元の方が教えてくれた。竹やぶだった耕作放棄地は、地元住民の力によって、現在は約300枚の田畑が復元されている。所有者の多くは、唐櫃岡に暮らす人々とのことだ。「獣害や高齢化、所有者との協力など、大変だけど、ここからの棚田と海の眺めはいいでしょ?」と、棚田で出会った方が誇らしげな笑顔とともに教えてくれた。美術館を訪れる際には、ぜひ周辺の自然にも目を向け、その自然が維持されているのは地元の方々がいるからであること、棚田を潤す清水があること、清水が集落の生活を支えてきたことを知って欲しい。棚田と島々の浮かぶ海を共同水場から眺めながら、そんなことを思った。なお、集落周辺の道は狭いところもあるので、訪問の際は十分に注意して欲しい。(尾野)

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参考文献

豊島美術館ハンドブック,公益財団法人 福武財団,2011.

種別 水場
所在地 香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃
構造形式 石造 水槽・排水路・擁壁
規模 面積75㎡
竣工年 昭和4(1929)年
備考 平成13(2001)年 登録有形文化財
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