昭和時代になると、私鉄の終着駅には巨大なターミナルビルが建設されて、その周辺には繁華街が形成された。大阪では、都市計画街路として拡張工事が行われた御堂筋の北端に阪神急行電鉄(現在の阪急電鉄)の梅田駅、南端に南海鉄道(現在の南海電鉄)の難波駅にターミナルビルがそれぞれ位置し、その一帯はいわゆる「キタ」と「ミナミ」の繁華街として賑わった。御堂筋の拡幅工事と同時に、その直下には1933(昭和8)年に大阪で最初の地下鉄(御堂筋線)が開業し、大阪の新たな軸線を形成した。
難波駅は、南海鉄道の前身となった阪堺鉄道の大阪の終着駅として1885(明治18)年に開業したが、1932(昭和7)年に元鉄道省建築課長の久野節の設計による地下2階、地上8階の南海ビルディングが完成し、老舗の高島屋が入店してターミナルデパートとなった。さらに1950(昭和25)年には大阪球場が完成して、1938(昭和13)年に南海軍として創設された南海ホークスの本拠地となった。
「なんば駅」と題した1955(昭和30)年前後の絵葉書には、難波駅を中心として南海ビルディングと大阪球場が収められ、俗に「私鉄王国」と呼ばれた関西の私鉄ターミナルを象徴した。南海ホークスは、1988(昭和63)年に福岡ダイエーホークスとなって福岡市に本拠を移し、大阪スタジアムは1998(平成10)年に閉鎖されて跡地は再開発されたが、南海ビルディングは今も御堂筋のアイストップとしてその偉容を誇り、2011(平成23)年には国の登録有形文化財に登録された。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2017年3月号掲載)
Q&A
登録有形文化財は、重要文化財とはどう違うんですか?
文化財保護法では「有形文化財のうち重要なもの」を「重要文化財」としており、「重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」を国宝に指定しています。しかし、厳選される重要文化財の指定だけでは、次々と失われる近代の建設物に対して保存が後手に回ってしまうため、重要文化財を補完するより緩やかな文化財制度として、1996(平成8)年に創設されました。建造物の件数は2020(令和2)年10月1日現在で、国宝は227件、重要文化財は2,509件が指定され、登録有形文化財は12,685件が登録されています。(小野田滋)
”難波駅(大阪市)”番外編
難波の賑わいが伝わってくる1枚ですね。
高層ビルが建ったり、大阪球場がなくなってだいぶ姿が変わってしまったが、賑わいぶりは相変わらずだな。
大阪球場と言えば、「涙の御堂筋パレード」ですね。
お前さんも、ずいぶん古い出来事を知っておるな。さては、昭和の生まれだな。
やだなあ。うちの大阪の爺ちゃんが御堂筋にパレードを見に行ったって、いつも自慢してたんですよ。
何のパレードだったか、知ってるのか?
大阪球場だから、南海ホークスが優勝したってことですよね。
ただの優勝ではない。1959(昭和34)年の日本シリーズで巨人に4連勝した。鶴岡一人監督のもとで杉浦忠投手が4連戦、4連勝した伝説の優勝だ。
難波は盛り上がったでしょうね。
大阪球場の跡地のなんばパークスの「南海ホークスメモリアルギャラリー」という記念コーナーがあるから、一度見学するといいぞ。
ほかには何か残っていないんですか?
ピッチャープレートとホームベースの位置を示したモニュメントがある。
大阪の大手私鉄は、みんなプロ野球を経営してたんですね。
京阪以外は、どこも球団と球場を持っていた。
今は阪神タイガースだけになっちゃいましたね。
昔は東急や西鉄も球団を持ってたから、プロ野球は鉄道と縁が深かったスポーツだ。
師匠はどこのファンですか?
もちろん、国鉄スワローズだ。
カネやんですね。
カネやんを知ってるってことは、やはりお前さんは昭和の生まれだな。