1905(明治38)年に大阪(出入橋停留場)~神戸(三宮停留場)を結んだ阪神電気鉄道は、軌道法によって敷設されたため、そのほとんどの区間が併用軌道であった。しかし、大正時代になると阪神急行電鉄(阪急電鉄)が神戸市内への延長線を建設し(ドボ鉄第108回参照)、鉄道省も阪神間を結ぶ電車運転を計画するなど、阪神間を結ぶ鉄道整備が活発となり、阪神電鉄も従来の併用軌道を解消して高速電気鉄道へと脱皮する必要に迫られた。
阪急電鉄は高架線を新設し、鉄道省は在来線を高架化して神戸市内への進出を図ったが、阪神電鉄は地下線に改良することとなり、1933(昭和8)年には岩屋~三宮間の地下線が開通した。阪神電鉄では、当時、兵庫~湊川間の延長を計画していた山陽電気鉄道との接続をめざして、三宮~湊川間延長線の免許を1934(昭和9)年に取得し、とりあえず三宮~元町間を第1期線として1935(昭和10)年に着工し、翌年3月18日に地下線として開業した。
「阪神電車元町停留場」と題した絵葉書には、中柱を備えた鉄筋コンクリート函型断面の元町停留場と、幅5.5m、延長120mの島式プラットホームがおさめられた。停留場にはエスカレータやエレベータも備わり、省線への連絡地下道などが整備された。
湊川への延長工事は、資金不足や戦争の影響によって断念せざるを得ず、しばらくは神戸方のターミナルとして機能していたが、1968(昭和43)年には神戸高速鉄道を介して山陽電気鉄道との相互直通運転が開始され、現在に至っている。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2022年2月号掲載)
Q&A
軌道法は、普通の鉄道に比べてどんな制約があるのですか?
この法律はいわゆる路面電車を前提としているため、普通鉄道に比べて速度や列車の長さなどに制限があります。「軌道運転規則」では、「連結車両の長さ」の条文で「連結した車両の全長を三十メートル以内としなければならない。」としており、「車両の最高及び平均速度」では「車両の運転速度は、動力制動機を備えたものにあっては、最高速度は毎時四十キロメートル以下、平均速度は毎時三十キロメートル以下とし、その他のものにあっては、最高速度は毎時二十五キロメートル以下、平均速度は毎時十六キロメートル以下とする。」と定めています。しかし、「例外の取扱」として「ただし、特別の事由がある場合には、国土交通大臣の許可を受けて、この規則の定めるところによらないことができる。」としており、設備を整えた上で特別な許可を受け、これらの制限条項によらない事例もあります。(小野田滋)
”阪神電鉄・元町駅(神戸市中央区)”番外編
絵葉書の写真の周りにある家紋のような印ですけど、どこかで見たことがあるような……。
ああ、それは菊水の紋だ。
キクスイって、日本酒か何かですか?
何を言っておる。大楠公の家紋だ。
ダイナンコウって、名古屋のお土産の……。
それは大納言だ。大楠公は楠木正成の尊称だ。
皇居外苑に騎馬像が建っている武将ですよね。
元町の少し先に楠正成を祀った湊川神社がある。
何で神戸に神社があるんですか?
大楠公は、湊川の戦いに敗れてこの地で自刃した。
つまりこの絵葉書は、元町が楠正成ゆかりの地だってことを示してるんですね。
歴史上の人物ゆかりの場所は、訪れる人も多いからな。
「聖地巡礼」ですね。
ロケ地とかアニメの舞台とか、だいぶ様変わりはしたが、昔も今も根強い人気がある。
ドラマとかで鉄道のシーンがあると、どこの鉄道で撮ったのか詮索したくなりますよね。
特に橋とかトンネルが登場すると気になるぞ。
ドボ鉄の興味が広がりますね。
ただ、気になりすぎて肝心のストーリーがわからなくなることがあるから、ほどほどにしといた方がいいかな。