ドボ鉄110関東大震災に耐えた高架橋

絵はがき:東海道本線・有楽町~新橋(東京都千代田区)


 今から100年前の1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災は、東京、横浜を中心とした関東地方南部に甚大な被害をもたらし、死者・行方不明者は約10万人を数えた。1910(明治43)年に完成した東京~新橋間の煉瓦アーチ式高架橋と1914(大正3)年に完成したばかりの東京駅も大地震の洗礼を受け、新橋駅と万世橋駅の本屋が焼損した(両駅とも焼残った躯体部分を利用して再建)。
 煉瓦アーチ式高架橋が日本の大地震に耐えられるかどうかは計画時から問題となっていたが、モデルとなったベルリンの高架橋では地震に遭遇した経験が無かった。また、地震に対する構造物の設計手法も確立していなかったため、震災予防調査会に照会を行って、数箇所ごとに橋脚を太くして高架橋が連鎖的に倒壊しないようにするなど、当時として考え得る限りの対策を講じた。
 「大正12.9.1 東京大震災 京橋区山下橋附近の大延焼と震災前の高架線」と題した絵葉書には、外濠沿いに建設された有楽町~新橋間の高架橋の周辺で火災が発生し、延焼している様子が捉えられているが、鉄道構造物については有楽町駅と新橋駅で火災が発生したものの、高架橋そのものは火災の影響による表面の剥離を除いて異状なしと報告された。震災の直後に東京駅を通りかかった小説家の田山花袋は、『東京震災記』(1924)の中で「そこは依然としてもとの東京駅だった。びくともしなかった。……(中略)……私は一種の勇ましさを感じずにはいられなかった。<矢張本当に力を入れたものか、どうかということは、こういう非常の時にわかるんだ。(後略)>」と証言し、東京駅の姿に感動したことを記した。
 関東大震災をくぐり抜けた東京駅はのちに空襲で被災し、高架橋ものちの地盤沈下によって変状したが、東京駅は免震工事が行われ、高架橋は耐震補強工事が行われて今も東京の鉄道輸送を支え続けている。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2017年6月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

震災予防調査会はどんな組織ですか? 

A

1891(明治24)年に発生した濃尾地震をきっかけとして、その翌年に文部省の所管で設けられた研究組織で、「震災予防に関する事項を攻究し其施行方法を審議する」ことを目的としていました。震災予防調査会には鉄道からも土木技術者が臨時委員として参加し、1893(明治23)年には震災予防調査会の研究成果を公表するための刊行物として『震災予防調査会報告』が創刊されました。臨時委員として鉄道局から参加した原口要は第1号で「濃尾震災ノ鉄道ニ及ボシタル震害調査報告」を掲載し、「線路」「橋梁」「溝橋」「停車場」についてその被災状況を報告したほか、木造家屋では斜材を用いて構造を強固にするなどの対策工についても言及がなされました。震災予防調査会の役割は、1925(大正14)年の震災予防評議会へ継承されました。(小野田滋)


”東海道本線・有楽町~新橋(東京都千代田区)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

師匠

今年は、関東大震災からちょうど100年目の年だな。

小鉄

東京駅は無事だったんですね。

師匠

田山花袋の記録にもあるが、無事だった。

小鉄

でも絵葉書では高架橋が炎上してますよ。

師匠

炎上してるように見えるが、煉瓦が燃えるわけがない。燃えているのは高架橋の後ろの建物だ。

小鉄

外濠には木の橋が架かっていますけど。

師匠

それは山下橋だ。震災後の写真にも写っているから、無事だったようだな。

小鉄

今はどうなってますか?

師匠

外濠が埋立てられてしまって橋は無いが、帝国ホテルの裏手あたりの高架線に「山下橋架道橋」があるから場所はすぐわかる。

小鉄

道路がくぐっている場所ですね。

師匠

当時の火災の延焼状況を見ると、山下橋の西側で火災が発生していて、絵葉書と記録かほぼ一致していることがわかる。

小鉄

絵葉書には帝国ホテルが写ってませんけど。

師匠

もう少し新橋寄りに建ってるはずだが、絵葉書には写っていないようだな。

小鉄

ライトの設計ですか?

師匠

フランク・ロイド・ライトの設計した二代目の帝国ホテルだ。実は地震発生の日に、その完成披露宴が予定されていたんだ。

小鉄

ええっ!当日ですか。

師匠

ライトはすでにアメリカに帰国していたが、帝国ホテルが無傷だったと知らされて安堵したという話が残っている。

小鉄

確かに地図でも帝国ホテルは延焼を免れていますね。

師匠

この地図は「火災動態地図」で、赤が焼失地域、赤丸が火元、小矢印が火流曲線、大矢印が飛び火、緑が時刻を表しているから、火が燃え広がった様子がよく理解できる。

小鉄

地震のあとの火災が被害を大きくしたんですね。

師匠

二次災害というやつだ。火災や津波、インフラの機能停止など、地震によって引き起こされる二次災害にはいろいろある。

小鉄

日頃の訓練や心構えが大事ですね。

師匠

備えあれば憂いなしだ。

建設概要古写真土木史研究
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