四国インフラ071 豊稔池堰堤

古城のような堰堤


豊稔池堰堤は、よく「中世ヨーロッパの古城のようだ」と言われる。阿讃山脈を分け入る柞田川上流の緑深い山間に、風雨にさらされながらも長い年月を経て佇んできた堰堤には、そう例えられるだけの風格がある。

豊稔池堰堤の特徴は、全国でただ一つのマルチプルアーチ式ダムが挙げられる。大正15(1926)年に着工され、昭和5(1930)年に竣工されており、堤長145.5m、堤高30.4m、両端部を重力式、中央部が5個のアーチと6個の扶壁(バットレス)からなる、当時としては画期的かつ希少な構造形式を採用している。また、洪水吐にはサイフォン形式を採用したことなど、随所に斬新な設計を取り入れている。堤体の一部に漏水等の老朽化がみられたため、昭和63(1988)年に改修工事に着手し、平成6(1994)年に竣工している。

豊稔池堰堤右岸側には、工事碑や旧土砂吐樋門、旧中樋取水口、火薬庫跡も残されている。これらを見ながら遊歩道を登っていくと、豊稔池堰堤の上に出る。アーチ部の形状や丁寧な石積を近くで見ながら楽しむのも、湖面とともに広がる山並みの風景を楽しむのもいいだろう。

豊稔池堰堤は、農業土木史の視点からも評価され、平成18(2006)年には重要文化財(建造物)に指定された。夏場には「ゆる抜き」と呼ばれる放流は季節の風物詩として知られている。こうした風景を楽しむ観光客も多く訪れている。現在も、約500haの農地の水瓶として活躍する豊稔池堰堤は、香川の農業と暮らしをこれからも支えていくだろう。(尾野)

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参考文献

土木学会 土木史研究委員会:日本の近代化遺産―現存する重要な土木構造物2800選―[改訂版],pp.236-237,社団法人 土木学会,2005.

種別 ダム
所在地 香川県観音寺市
構造形式 マルチプルアーチ式コンクリートダム
規模 集水面積8km 満水面積15.1ha 総貯水量1643千m3 有効貯水量1593千m3 堤高30.4m 堤長128.0m 堤体積39.5千m3 洪水吐78m3/s
竣工年 昭和4(1929)年
管理者 豊稔池土地改良区
備考 平成18(2006)年 重要文化財(建造物)
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