「水上飛行機(水上機)」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。青い海と島々を眺めながら優雅に飛んでいく姿だろうか?水上機が、第二次世界大戦では各国の海軍で多数使用されていた。旧日本海軍も他国と同様に水上機を導入したことを知っている人は、今では多くはないだろう。
水上機や飛行艇は、滑走路などの大きな飛行場設備を必要とせず、着水による不時着が可能であるなど、様々なメリットがある。穏やかな海水面の瀬戸内海は、既に1920年代から旅客飛行艇の営業運航が行われていたという。そんな瀬戸内海に面する香川県三豊市詫間町の詫間湾は、北と西に岬があり、目の前の粟島が波風を避けてくれる地形を持っていた。そのため、対岸にある広島県呉市の海軍第十一航空隊の航空基地として、昭和18年(1943)に開隊した。選奨土木遺産に選定されている〝滑走台〞(スリップ)は、大艇用3基と小艇用1基が現存している。潜水夫によって海底に割石基礎が築かれ、その上にコンクリート盤が4.5度の勾配をもって施工されている。側面は花崗岩間知石が施され、西端の滑走台には軌道も取り付けられているが、東端は水平に改修され荷揚げ場となっている。
最初は水上機の実用機教育の場として数多くの兵員が着任し、連日猛訓練が展開されたが、沖縄攻防戦の主力を詫間に配置することが決定し、終戦の日まで大型飛行艇隊を擁する水上機の一大作戦基地となった。神風特別攻撃隊魁隊の出撃地としてとしても知られるこの地は、今では高校や地元工場が立地され、その歴史を伝えるものは記念碑と滑走台跡しかない。穏やかな瀬戸内海の風景と、かつてこの地で訓練を受け飛び立っていった歴史をもつ滑走台。この地を訪れた人々は何を思うだろうか。(尾野)
岡田 昌彰:詫間海軍航空隊滑走台,土木学会誌Vol.92 No.6,pp.74-75,2007.
種別 | 軍事施設 |
所在地 | 香川県三豊市詫間町 |
構造形式 | Cスリップ(傾斜面、側面は間知石谷積) |
規模 | 大艇用:40m×40m(3基) 小艇用:145m×40m(1基) |
竣工年 | 昭和18(1943)年 |
備考 | 平成18(2006)年度 選奨土木遺産 |