四国インフラ026 JR高知駅

維新精神の<心臓>


太平洋に向けて大きく弓なりに湾曲した高知県は、端から端までが遠い。陸路でそれらを結びつけるのは鉄道と道路である。高知駅は、その鉄路の中心に位置する、四国旅客鉄道(JR四国)土讃線の駅である。この駅には土佐くろしお鉄道阿佐線(ごめん・なはり線)も乗り入れているとともに、南側の駅前広場には、とさでん交通桟橋線(駅前線)の高知駅前停留場が立地している。鉄道という<動脈>の起点となる要所、すなわち<心臓>である。

この<心臓>が誕生したのは大正13(1924)年。それから数えて三代目の駅舎が平成21(2009)年に完成した。ホームを包み込む、幅38.5m、高さ23.3mの大きなアーチ断面のトレインシェッド(大屋根)が目を奪う。設計者は、日向市駅、旭川駅の設計で日本の駅のデザインに変革を起こしてきた内藤廣。この大屋根、片側は鉄道高架に着地しているが、反対側は駅前広場に着地している。通常、駅施設が鉄道敷地を越えて駅前広場(ふつうは公有地。高知駅では高知市の敷地。)に着地することはない。今までの鉄道施設の常識を破ったこの構造は、維新の志士を生んだ高知の風土ならではであったと内藤は語っている。

「委員会で質問を受ける中で、案の説明のために何気なく発した言葉が、思わぬ結末を招くことになった。オーソドックスな方は、不定形な平面の鉄道高架に合わせてアーチが変化し、緩やかな3次曲面の屋根となる。その姿が高知の特産品のひとつでもある鰹節のように見えたので、鰹節案と名付けた。もうひとつの方は、鉄道施設としては前例のないものなので、維新精神のようなものかなと発言した。(中略)翌日の朝刊を見て驚いた。一面に大きな字で、「鰹節か維新精神か!!」とデカデカと書かれている。(中略)結局、維新精神の案が採用された。(中略)この辺りは、高知県人気質のなせるわざだろう。」(内藤廣)

高知の<心臓>には、維新精神が宿っているのだ。(尾崎)

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引用文献

内藤廣:内藤廣の建築 2005-2013 素形から素景へ 2,TOTO出版,2013.

参考文献

日経アーキテクチュア編:NA建築家シリーズ03 内藤廣,日経アーキテクチュア2011.

種別
所在地 高知県高知市
構造形式 鉄骨鉄筋コンクリート造・一部木造・鉄筋コンクリート造・鉄骨造
規模 敷地面積3558.55㎡ 建築面積3077.54㎡ 延床面積3231.21㎡ 最高高さ23.3m
竣工 平成21(2009)年(平成20(2008)年開業)
管理 四国旅客鉄道株式会社
設計者 内藤廣建築設計事務所、四国旅客鉄道株式会社、四国開発建設株式会社
備考 JR土讃線連続立体交差事業:平成20(2008)年度全建賞都市部門、平成21(2009)年第21回全国街路事業コンクール国土交通大臣賞  くじらドーム(高知駅舎大屋根):平成20(2008)年第7回日本鉄道賞ランドマークデザイン賞、平成21(2009)年第25回 高知市都市美デザイン賞一般建築部門入賞  大屋根・駅舎建物:平成21(2009)年鉄道建築協会賞停車場建築賞  JR土讃線鉄道高架橋:高知市都市美デザイン賞テーマ建築部門入賞
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