四国インフラ088 内海ダム

丁寧に、大胆に、挑み続けるダム


小豆島は、瀬戸内海に浮かぶ島の中では最も大きな島で、香川県小豆郡土庄(とのしょう)町と小豆島町の2つの町で構成されている。『二十四の瞳』や『八日目の蝉』の舞台となった島で、近年ではオリーブや醤、素麺などの特産品で耳にしたことがある人も多いのではないだろうか。その小豆島町にある草壁港から日本三大渓谷美の一つ、寒霞渓へと向かう途中に、内海ダムがある。

もともと小豆島は瀬戸内海の中でも降水量の少ない地域であり、生活のためにも河川を含め水は貴重な資源だ。別当川は、寒霞渓を水源とした標高差700mを4kmで海まで下る急勾配の河川である。この別当川につくられた内海ダムは、水道水源として昭和31(1956)年につくられた。しかし、洪水調節容量が小さかったこと等から治水対策が見直され、40m下流に新たな内海ダムが建設されることになった。事業計画にあたっては、背後の寒霞渓や眼下に広がる瀬戸内海国立公園といった周辺自然景観との調和と、下流集落からの圧迫感低減という景観面での配慮が重要課題であった。これを解決するために、14年の歳月をかけて地道な景観づくりのマネジメントが行われ、真南に向いた斜面中腹に横たわる長さ400mを超えるダム堤体には、丁寧なデザイン検討が行われた。遠景に対しては天端のスカイラインが形成できるよう3つの操作室を堤体内に格納し、高欄内蔵型照明が採用されている。近景に対しては、洪水吐部の線と面を統合し構造美が追求され、堤体下流面に横ラインを配して集落への圧迫感が軽減されている。

内海ダムの景観づくりの最大の特徴は、造成計画や緑化計画などによる『見せないための』アースデザインである。ダム軸と垂直に交わる中尾根を残した造成デザイン、堤体下流側の大規模盛土(土捨場)、湖周道路の線形変更や造成アバットメント工法の採用による掘削法面の最小化、法枠工を用いない法面緑化など、大規模土木事業の景観設計は「お化粧」ではなく「事業全体のデザイン」が重要であることを示す実例でもある。景観設計という観点で計画・設計だけでなく施工計画まで大胆な変更をしたことで、経費削減にも貢献している。現代のダム建設としては画期的な取り組みに挑んできた事例として高く評価され、内海ダムは土木学会デザイン賞2017の最優秀賞を授賞した。

堤体下流側の盛土は地元の子供たちの協力のもと、どんぐりの森づくりが行われ、絶滅しかけたホタルも再生しつつある。10年、30年後に緑に覆われたダムとして地域に溶け込んだ存在となるだろう。(尾野)

この物件へいく

参考文献

2017年度デザイン賞選考小委員会・運営幹事:土木学会デザイン賞2017 作品選集,公益社団法人土木学会 景観・デザイン委員会,2018.

種別 ダム
所在地 香川県小豆郡小豆島町
構造形式 重力式コンクリートダム
規模 集水面積4.8k㎡ ダム高43m 堤頂長423m 総貯水容量1060千㎥ 洪水調節容量580千㎥
竣工年 平成26(2014)年
管理者 香川県
設計者 株式会社アイ・エヌ・エー(旧 株式会社クレアリア) 高須 祐行(株式会社クレアリア(当時)、八千代エンジニヤリング株式会社(現在)) 小栁 武和(茨城大学(当時)、茨城大学(名誉教授)(現在)) 井上 大介(株式会社クレアリア(当時)、株式会社東京建設コンサルタント(現在)) 齊藤 瑛璃香(株式会社クレアリア(当時)、八千代エンジニヤリング株式会社(現在))
備考 平成29(2017)年 土木学会デザイン賞2017 最優秀賞
土木学会デザイン賞ダムフォトライブラリー
Back To Top