四国インフラ047 日土小学校

歴史や記憶を空間的に伝える学び舎


愛媛県八幡浜市の中心部から山あいに入って喜木川を少し上ると、川沿いに端正な姿の校舎が目に入る。八幡浜市立日土小学校は、同市に勤務していた松村正恒(1913-1993)の設計で、中校舎が昭和31(1956)年、東校舎が昭和33(1958)年に竣工した。
校舎は、切り妻屋根の木造2階建てで水平連続窓を強調し、細部にわたってペンキで彩色されている。教室は廊下と分離したクラスター型(葡萄の房状)の配置であり、教室の静寂性と両面採光が可能となっている。川に突き出た図書室前のベランダやテラス、外部鉄骨階段は、水面に映ってなお美しい。

「場所は川幅が十米ぐらいの岸辺に川の上に迫り出して建っている。堰き止められて川は水鏡、向かいの岸は急勾配の密柑山、テラスに桜の花が散り、5月の薫風にのって蜜柑の花の香りが教室にただよう、蛍の乱舞する夏の宵、柿の色、蜜柑の朱、落葉のいろどる冬の河」(松村正恒)

構造的には木と鉄骨を組み合わせたハイブリッドな構法が使われ、広く明るい空間を確保している。戦後の子ども中心主義の民主主義教育を体現しようとした試みであり、また自然と一体化し、風土に対応した木造モダニズム建築と位置づけられる。
10年を超える保存再生活動を経て、平成21(2009)年には東校舎、中校舎の保存改修と西校舎の改築工事が完了し、文化財的価値を維持しつつ高度な教育機能を保持する学校へと受け継がれる。そして、2012年には戦後建築で4例目、木造建築では初めての国指定重要文化財に指定された。
保存再生された日土小学校の空間には、独特の気配が漂う。過去と現在が巧みに配置され、未来へ繋がる装置が加わった日土小学校は、歴史や記憶を空間的に伝えるものとなっている。そのような空間で子どもたちが毎日を過ごすことの意義はとても大きい。(曲田)

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参考文献

「日土小学校の保存と再生」編纂委員会編:日土小学校の保存と再生,鹿島出版会,2016.

   松村正恒:無級建築士自筆年譜,住まいの図書館出版局,1994.

種別 小学校
所在地 愛媛県八幡浜市日土町
構造形式 木造 2階建
規模 中校舎:675.56㎡ 東校舎:723.06㎡ *西校舎:621.04㎡
竣工年 中校舎:昭和31(1956)年 東校舎:昭和33(1958)年 *西校舎:平成21(2009)年
設計者 松村正恒
備考 平成24(2012)年 国指定重要文化財

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