1956(昭和31)年に完成した天竜川水系の佐久間ダムの建設は、戦後復興を象徴する大プロジェクトであった。ダム湖に沈む地域には、1937(昭和12)年に全通した飯田線の線路が含まれ(ドボ鉄第19回参照)、中部天竜~大嵐間の延長約13kmを天竜川から東側の水窪(みさくぼ)を経由する延長約18kmの路線に付け替えることとなった。このうち、トンネル工事はドボ鉄第72回で「トンネル工事の機械化」と題して紹介したが、橋梁は新旧の路線が分岐する中部天竜~佐久間間に新たな天竜川橋梁が架設され、日本国有鉄道飯田線工事事務所によって1955(昭和30)年に完成した。
今回紹介する絵葉書には、左側に佐久間発電所が写っており、すでに変圧器なども並んでいるので完成間近か完成直後の撮影と推察される。右側には、三信鉄道によって1936(昭和11)年に架設された曲弦トラスが写り、さらに右端に新線に架かる新しい天竜川橋梁が見える。新線への切替えは、1955(昭和30)年11月11日に実施され、廃止となった旧線のトラス橋は、建設中であった田子倉線(現在の只見線の一部区間)会津塩沢~会津蒲生間の第8只見川橋梁へ転用された。したがって、絵葉書の写真は、新旧の天竜川橋梁が並ぶ姿をおさめた貴重なひとコマということになる。
新しい天竜川橋梁で採用された3径間連続の平行弦ワーレントラスは、垂直支材を省略してほぼ正三角形で構成される格間を用いたのが特徴であった。さらに、溶接接合の導入や平行弦の採用によって、従来の曲弦トラス橋に比べて軽快でスマートな姿のトラス橋を実現し、東海道新幹線では鋼トラス橋の標準設計として用いられた。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2021年5月号掲載)
Q&A
連続トラスは、どんな特徴があるんですか?
一般の橋梁は、1連のトラスを一対の橋脚または橋台の上に載せますが(単純トラスと称します)、1連のトラスを複数の橋脚にわたって連続して架設したトラスを連続トラスと称しています。連続トラスは、単純トラスに比べて橋脚上の支承が1箇所で済むため、橋脚の断面を小さくでき、地震などによる落橋の危険性も少ないという利点があります。しかし、万一、橋台や橋脚に沈下が生じた場合には変形に対する追従性が乏しいという欠点もあるので、一般に地盤条件の良い場所で使われます。プレートガーダの場合は、連続桁と称します。長大なトラス橋では連続トラスがしばしば用いられ、PC(プレストレスト・コンクリート)橋梁でも用いられています。(小野田滋)
”天竜川橋梁(静岡県浜松市天竜区)”番外編
ダムを造るために線路を付け替えることって、時々あるんですか?
たまにあるぞ。最近でも、2014(平成26)年に群馬県の八ッ場(やんば)ダム建設のために吾妻線の線路を付け替えた。
でも莫大な工事費がかかるから、鉄道会社は大変ですね。
線路の付け替えはダムの建設のために行われるから、工事費は基本的にダムの事業者側の負担になる。
飯田線の付け替え工事も、佐久間ダムを建設した電源開発が負担したんですか?
そういうことになるな。
ダムの工事費は、ダムの建設だけじゃないんですね。
ダムを建設するための工事用道路の建設や、ダム湖で水没する住民の移転補償など、ダム本体の工事以外にいろいろと費用が必要だ。
たしかにダムは山奥にあるから、まず工事用の道路を通さないと工事が始まりませんね。
工事で付け替えた新線は、トンネルや橋梁も新しくなるから、歴史の古い路線である特定の区間だけ新しい構造物がある場所は、たいてい線路を付け替えた場所だ。
ダム以外の理由で付け替えることもあるんですか
複線化とか、線形改良とか、構造物の老朽化とか、橋の架け替えとかいろいろと理由はあるから、そこを深堀りすると興味の輪が広がるぞ。
師匠は何でも深堀りしたがるんですね。
ボーリングと同じで、深堀りするといろいろなことがわかる。
こう見えてもボーリングは得意種目ですよ。
お前さんが言ってるのは、ボウリングの方だろう。