ドボ鉄120神居古潭を行く鉄路

絵はがき:函館本線・旧神居古潭駅(北海道旭川市)


 現在の函館本線滝川~旭川間の前身である上川線は、北海道官設鉄道(北海道庁臨時北海道鉄道敷設部→北海道庁鉄道部→北海道鉄道部)によって建設が進められ、田邊朔郎(たなべさくろう)を技師長に迎えて工事が行われた。石狩川は、大雪山系の石狩岳付近を源流として、上川盆地から神居古潭(カムイコタン)の狭窄地を抜けて石狩平野へと流れるが、アイヌ語で「神(カムイ)の集落(コタン)」を意味するこの場所は、奇岩が露出する景勝地としても知られていた。
 また、この区間には膨張性の岩石である蛇紋岩が分布し、神居古潭トンネルは難工事となり、当時の記録でも「隧道ノ掘鑿殊ニ困難ヲ極メ」と記された。そして、1898(明治31)年に空知太(砂川~滝川間にあった廃駅)~旭川間が全通した。神居古潭を撮影した絵葉書には、渓谷にそった線路と神居古潭駅が写り、上り列車が駅構内に進入しつつある。
 この区間は単線であったため輸送力も限られ、1942(昭和17)年頃から複線化計画が進められたが、戦争の影響などで実現には至らなかった。また、災害の常襲地で、毎年のように築堤崩壊や斜面崩壊を繰返すなど、防災上の問題も抱えていた。
 その後、1964(昭和39)年にようやく複線線増計画が承認され、調査の結果、新線で複線断面のトンネルを建設し、川沿いだったルートを山側に付替えて路線を短絡することとなった。こうして現在の神居トンネル(延長4523m)が建設されたが、蛇紋岩(じゃもんがん)帯の通過は避けられず、サイロット工法や縫地(ぬいじ)工法を用いるなどしてこれを克服した。工事は1969(昭和44)年に完成し、同時に完成した電化工事によって電車列車が運転を開始した。
 廃止された旧線は、廃止と同時に旭川サイクリングロードとして整備され、絵葉書に写る神居古潭駅本屋は、その休憩室として利用されている。(小野田滋)(「日本鉄道施設協会誌」2020年2月号掲載)

 

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Q&A

文中の専門用語などを解説します

Q

蛇紋岩はどんな岩石ですか?

A

 火山岩の一種の橄欖岩(かんらんがん)が、地下深部で水分の作用を受けて蛇紋石に変質した岩石で、蛇のウロコのような模様を伴うことから英語では「蛇」を意味する「serpentinite(サーペンティナイト)」と呼んでいて、日本語でも「蛇紋岩」と名付けられています。葉片状に破断して滑りやすく、吸水膨張する性質があるため、トンネル工事の障害となります。日本では、大規模な構造線に沿って分布しており、北海道の神居古潭帯、北上山地の早池峰(はやちね)構造帯、飛弾外縁帯、中央構造線沿いの三波川(さんばがわ)変成帯などが知られています。(小野田滋)


”函館本線・旧神居古潭駅(北海道旭川市)”番外編

師匠とその弟子・小鉄が絵はがきをネタに繰り広げる珍問答

小鉄

「サイロット工法」って何ですか?

師匠

山岳トンネルの掘削工法の一種で、「サイドパイロット工法」を日本流に縮めた言葉だ。

小鉄

……?

師匠

日本語では「側壁導坑先進工法」「側壁導坑先進上部半断面工法」などと称している。

小鉄

何となくわかりますが……。

師匠

トンネルを掘る順番で、最初に左右に小さい断面のパイロットトンネル-つまり先進導坑-を掘って、側壁(そくへき)の覆工(ふっこう)コンクリートを完成させてから中央のアーチ部分を掘削する。

小鉄

どんな時に使うんですか?

師匠

地質が不良な地山でよく使われる。

小鉄

「縫地工法」は何ですか?

師匠

縫地工法は、矢板を鋼製支保工(こうせいしほこう)の裏側から地山に打ち込んで、片持梁(かたもちばり)式で地山の緩(ゆる)みを支える施工法だ。

小鉄

やっぱり不良な地山で使うんですか?

師匠

崩壊しやすい砂質層のトンネルなどで、補助工法として使われる。

小鉄

補助工法?

師匠

通常の掘削工法では対処できない場合に使う、補助的な施工法のことだ。

小鉄

どんな施工法があるんですか?

師匠

水抜き坑、薬液注入、パイプルーフなどいろいろな種類がある。

小鉄

師匠の机も資料の山で崩壊しそうだから、補助工法が必要ですね。

師匠

余計なお世話だ💢

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