四国インフラ025 牧野植物園

<呼吸>の聖地


高知平野と太平洋の間にそびえる五台山に、植物学者・牧野富太郎(1862-1957)博士を記念する植物園がある。牧野は1,500種を超える植物の名付け親であるという。わが国史上類を見ない植物研究者である牧野は、本企画のアナロジーをあてはめれば、<肺細胞>研究者ということになろうか。氏の業績を記念し、逝去の翌年に高知県が5haほどの広さの植物園を開設した。五台山の豊かな起伏に野生植物などおよそ3,000種が四季折々の表情を見せる。ここは<肺細胞>研究者を顕彰する極めて豊かな<肺>なのだ。

その<肺>の中に二棟の建築物がある。牧野富太郎記念館。設計者は内藤廣。ふたつの屋根は、周囲の豊かな地形に合わせたような有機的な形状で低く伏せるように山肌に追随する。造成面積も極力抑えられたという。台風銀座のこの地において、風力の抵抗を出来るだけかわすという点で合理的であるだけでなく、牧野博士の見つめ続けた自然へと同化していくような建築だ。このありようは、まさに土木ではなかろうか。自然に寄り添い、自然の<呼吸>を止めない構造物。五台山は<呼吸>の聖地だ。(尾崎)

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参考文献

内藤廣:内藤廣の建築 1992-2004 素形から素景へ 1,TOTO出版,2013.
日経アーキテクチュア編:NA建築家シリーズ03 内藤廣,日経アーキテクチュア2011.

種別 植物園
所在地 高知県高知市
構造形式 牧野富太郎記念館:鉄筋コンクリート造・鉄骨造+集成材架構
規模 牧野植物園:約6ha 牧野富太郎記念館:敷地面積44596㎡ 建築面積5638㎡ 延床面積7362㎡ 最高高さ13m
竣工 牧野植物園:昭和33(1958)年開園 牧野富太郎記念館:平成11(1999)年
管理 高知県
設計者 牧野富太郎記念館:内藤廣建築設計事務所
備考 牧野富太郎記念館:村野藤吾賞、高知市都市美デザイン賞特賞、毎日芸術賞、建築業協会賞、SDAパブリック部門入選、日本照明学会照明普及賞優秀施設賞、国際トリエンナーレ・インターアーキ2000 IAAグランプリ
牧野植物園
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