名古屋港にある工場で造られた零戦は、テスト飛行のために内陸の各務原の飛行場までの長い道のりを、牛車に引かれて運ばれた。宮崎駿監督のアニメ映画「風立ちぬ」で描かれた印象的なシーンとして、この事実を知る人も多いだろう。この道行きの風景は、田園の中を歩む牛車という地場産業の低速の輸送機関と、当時の最先端技術による高速の輸送機関が、見事に対比されてその両者のコンテクストが際立つ。
牛車が象徴するコンテクストは、それまでにこの地場に育まれてきたローカルな生産である。木曽川をはじめ、山から海に至って広がる大きな河川流域に形成された国土から得られる豊富な自然資源が、この地域には近接して分布している。こうした基盤に支えられた地場産業は、地の利を活かして興るべくして興ってきた。一方で飛行機が象徴するコンテクストは、先端技術によって生まれるプロダクトの由来である。
愛知・岐阜・三重を中心とする中部地方のインフラを概観する時、要素に分けて理解をする「解剖」という手法を使うなら、プロダクトを生産する「インダストリ(産業)」を僕らのメスにしよう。普段僕たちが使っている食器、自動車、電気など、身の回りに普通にあるプロダクトを生産するために、そのあらゆる場面でこれを支えるインフラが登場する。それらのインフラがシステムを為して、その蓄積が中部地方一体の国土をつくっている。
例えば、都市における建築の主材料として必要だった材木は、山林で育てられ刈られた丸太を河川に流送させ、筏などにしながら海まで運んで流通された。遠い昔海底に堆積した粘土層が隆起して山地をなし、この土を材料とし、山林から燃料を得て、「瀬戸物」が生まれる。鉄道と舟運で基盤をつくって商圏を拡げると、こんどは送電に必要な碍子(がいし)などハイテクな技術へ組み込まれることも起こる。水はけのよい大地において有利だった綿花の栽培適地には紡績・織物産業が展開し、これも輸送インフラの進展により、巨大な産業システムを形成した。このような中部の産業集積の多様性に依存すれば、名古屋近郊に展開した自動車産業は各地で生産可能な関連部品を必要なだけ調達できた。
つまり、近代技術は突然どこかからまるまる降ってきたわけではなく、地場産業の基盤の上に接ぎ木をするようにして、ゆるやかに溶け込むように発達し、風土に編み込まれてきたものだ。この「中部インフラ解剖」では、中部地方における資源と技術の重層的ネットワークを解きほぐしながら、そこに役割を持つインフラに焦点を当てる。
「中部インフラ解剖」製作ワーキング 主幹
出村 嘉史
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2019.09.08
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